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38 契約

 少女の目の前まで進んだ寛介は、手に持った剣を足元に突き刺した。

「……なんのつもり?」

 寛介は少女を見つめながら尋ねる。

「泣いてるのか」

 少女が目を赤くしながら涙を少し流していることに寛介は気が付き、そう尋ねた。

 恥ずかしそうに目をこすりながら、少女はごまかすように口を開いた。

「泣いてないし」

「刺したらお前はどうなるんだ?」

「そんなの関係ないでしょ。君は夢から覚めて、私は二度と君に手を出せなくなるだけ」

「……」

 寛介は考え込む。その態度に少女は腹を立て、大きな声で叫んだ。

「鬱陶しいなぁ! そんな風に同情するなら、おとなしく体を譲ってよ!」

 そういうと、少女は言ってしまったというような顔で口を抑える。

「お前、体が欲しいのか?」

「……そうよ、それが何?」

「一体何のために?」

 寛介のしつこさに少女はイライラしながらも、小声でつぶやくように答えた。

「――かったの」

「え?」

「外の世界をもっと自由に動いて、誰かと話したかったの!」

「どういうことだ?」

 少女はうつむきながら口を開く。

「生まれて物心ついたら剣で、動くこともできなくて、ずっとなにかの中に閉じ込められて暗かった。やっと出られても、剣のままじゃ誰とも話せないし……」

 少女は魔剣として生まれ、ずっと一人で孤独だったという。

 涙を流しながらそう語る少女を刺すことなど寛介には出来るはずもなく、ただ時間だけが過ぎていく。寛介がどうしたものかと悩んでいると少女が口を開いた。

「なんちゃって! ちょっと涙を見せたら情にほだされちゃって、これだから甘ちゃんは、隙だらけだっての!」

 少女は地面に刺さった剣を抜き、寛介に斬りかかった。反応できないこともない速度にも関わらず寛介は避ける素振りすら見せない。

 刃は寛介の目前で寸止めされる。少女はぷるぷると震えながら寛介に怒声を浴びせる。

「何考えてんの!?」

「当てる気のない剣を避ける必要はないだろ?」

「結果論でしょ!? もし私が止めてなかったら……」

「止めてたさ、そもそもお前、俺を殺す程危害を加えるつもり、最初から無かったろ?」

「はぁ!?」

「もし俺を殺す気ならもっと早い段階でそうしていたはずだ」

「そんなの……、馬鹿じゃないの!」

「ああ、本当にな。だけど、泣いている女の子をほっとくなんて俺にはできない」

「――ッ!!」

 言っていることがただの女たらしの口説き文句で、少女は声を失う。寛介は畳み掛けるように話す。

「俺と取引をしよう」

「……取引?」

「ああ、俺の目的が達成できたら、その後は俺の体を貸してやる、だからそれまで俺に力を貸してくれ」

あまりにも予想外の提案に、少女が笑い出す。

「ははは、君ってどれだけお人好しなの」

 そう言いながら、ため息を付いた少女は右手を差し出す。

「絶対約束は守ってもらう、君の妹を助けられたら体を使わせてもらうからね」

 少女が言ったことに寛介は目を丸くする。

「え、なんで目的を知ってるんだ」

「君いつも妹のこと考えすぎだよ、最近はあの獣人のことも気になってるみたいだけど? 全部伝わってきてるからそういうの」

「そ、そんなことないだろ……」

 恥ずかしそうに寛介は少女の右手を取り握手する。

「私はナル、これからよろしくねご主人様」

 ナルと名乗った少女がそういうと、寛介の手の甲に刻印が現れる。刻印が強く光り始め、その光が寛介の意識を持っていった。


「ほら、いつまで寝てるのご主人様」

 パチパチと寛介の頬が叩かれる。痛みで目を覚ますとそこは気を失った森の中だった。寛介は起きるやいなやノノを確認する。奇跡的にノノの傷は急所を外れていた。さらに獣人特有の自己治癒力の高さかすでに傷も塞がりかけていて、寛介の腕の中ですやすやと眠っている。

 寛介は安堵しながらも、ノノではない目の前にいた少女の顔を見て驚いた。

「ナル!? なんで? まだ夢の中ってことか?」

「落ち着いてご主人様、ここは現実だよ。私もよくわからないけど起きたらこうなってた」

「そうか……、残念だな」

「残念?」

「だって体を手に入れたんだ、俺に力を貸す理由ももう無いだろ?」

 それを聞いたナルは大きな声で笑い出す。

「なんで笑うんだ」

「本当にお人好しだねご主人様は。安心してよ、契約は契約、ちゃんと最後まで付き合うよ」

「いいのか?」

「もちろん」

「んっ……、ふぁぁ」

 そのような会話をしていると、ノノが目を覚ました。目を覚ますと目の前で見知らぬ少女と寛介が楽しそうに会話をしている。ノノの目から光が失われる。

「ノノ、目が覚めたか? 良かっ――」

「カンスケ様、なんですかその雌は」

「え?」

「悪い虫ですか、ノノが寝てる間にカンスケ様に近づくなんて、許しません」

「お、落ち着けノノ!」

 その後、怒って暴れるノノをなんとか制止し、泣いて話を聞かないノノを説得する寛介であった。


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