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37 夢の世界

 優しい声が聞こえ、寛介の視界がぼやけ風景が変化する。

「なんだここは……?」

 寛介は雲の上に立っていた。周囲を確認すると、遠くのほうに人影が見えた。混乱しつつも、とにかく確認しようと近付いていく。

 近付いて確認すると、立っていたのは同じ人間とは思えないほど艶麗な女性であった。

「こんにちは」

「あんたは……」

 その女を見て寛介は違和感を持った、初対面であるはずなのに初めて会った気がしない。

「どこかで会ったことが?」

 そう尋ねると、なぜか聞き慣れた耳に心地いい声で返答があった。

「会ったのは初めてです、ですが私はあなたをよく知っています」

「どういうことだ、それにここは一体何なんだ?」

「ここは……、あなたの理想の夢の世界です」

 夢だといわれ、食べたすき焼きの味や風呂の温かさが思い出され、思わずつぶやきが漏れる。

「夢……? それにしてはいやにリアルだったぞ?」

「はい、出来るだけ現実に感じられるよう近付けましたから」

「? 一体何のために……」

「……」

 押し黙る女にしびれを切らした寛介は詰め寄って言う。

「もういい、あんたの仕業だっていうなら早く俺を戻してくれ。美子とノノを助けないといけないんだ」

「あなたはここにいたほうがいい、ここにはあなたを傷つけるものは何もない」

 女がパチンと指を鳴らすと、その両隣に現れた人物に寛介は目を見開いて驚愕する。

「美子……? ノノ……?」

「寛にぃ、どうしたの? あ、私があまりにも可愛すぎてびっくりしてるの?」

「カンスケ様? 何か悩みがあるならうちに言ってください、何でもしますから!」

 まさかの出来事に声も出ない寛介を見ながら女が口を開く。

「あなたが望むものは何でもここにあります、この夢の世界で幸せに暮らしてください」

「なんでも……」

「そうだよ寛にぃ、つらいことなんてもう考えなくていいんだよ、私はここにいるから」

「うちもいますよ、カンスケ様」

 二人が寛介に抱きついてくる、感触や臭いが妙にリアルでだんだんとわけが分からなくなる。

 ここが理想の世界ならもうそれでいいか、そう思えれば楽になれる。

「だけどどうしてかな……、どうしてもそれでいいと思えないんだ」

 寛介はそう言って女へ視線を向ける。

「一体お前は何だ」

 寛介がそういうと女性の口元がニヤリと歪む、と同時に美子とノノが消えていなくなった。

「わからないの? 二回も君を助けてあげたのに」

 女が手をかざすとその手に剣があらわれた。その剣を見て寛介は絶句する。

「それは……、俺の剣!?」

 それは瘴気溜まりから脱出した際にいつの間にか手に入れていた漆黒の剣だった。

「恩人、いや恩剣か? まぁいいや、そんな私に対して誰だなんて心外だよ」

 寛介は意味が分からないといった顔で女性を睨みつける。

「怖い顔しないでよ、とにかく私は君の体を借りたいだけ、君はここでずっと幸せに過ごせる、ウィンウィンだと思うけど?」

「ふざけるな、そんなのは幸せじゃない」

「仕方ないなぁ、力づくはあんまり好きじゃないんだけど」

 そういうと女性の体が光り、姿が変化していく。艶麗であったその姿は快活な少女をイメージさせる姿に変わった。

「それが本当の姿か」

「はは、剣の私に本当の姿なんてないよ、動きやすいからこの姿になっただけ」

 少女は剣をその場でぶんぶんと振り感覚を確かめている。

「よし、じゃあ行くよ。大丈夫、ちょっと動けなくするだけだから」

「やってやるよ、こい!」

 少女が斬りかかってくる。迎え撃つために剣を抜こうとするが、そこで重大な事実に気が付いた。

「武器を持ってない!?」

「ははは、今更? 残念だけどもう待ってあげないよ!」

 焦った寛介はなんとか初撃を躱す。どうやら魔力操作は問題なく行えるようだ。少女は続けて仕掛けてくる。

「なめるなよ!」

 寛介は攻撃を見切り、体落を仕掛ける。急なことで少女は受け身も取れず背中から落とされる。

「ガッ!」

 肺に溜まっていた空気が衝撃で無理やり排出される。よろよろと起き上がる少女の目つきが変わる。

「はぁ、はぁ、よくもやったな……」

 少女が力を込めると、剣を中心に魔力が渦を巻いていき、やがてその渦は少女の体を包んでいく。

「本気で行くよっ」

 トンと右足で地面を軽く踏んだ次の瞬間、寛介の目の前に剣が振り下ろされる。

「!?」

 寛介はなんとか反応するが、避けきれず左腕を剣が掠っていった。

「へぇ、今のが見えるんだ、すごいね」

 少女はさらに攻撃を仕掛けてくる。寛介は避けきれず、傷の数が増えていく。しかし、寛介に焦りはなかった。

「余裕そうな顔して……、ムカつくなぁ……」

「今お前が使ってるそれ、さっき俺に使わせたやつだろ?」

 少女の眉が動く。

「お、図星だな? ってことはそろそろ時間切れじゃないのか?」

「小賢しいね、確かに時間切れだよ」

「魔力欠乏にならないんだな」

 寛介が使ったときは気を失ったが、少女はピンピンとしてる。

「ああ、結構溜まってるからね、まだまだ余裕があるよ」

 それを聞いた寛介は戦慄する。あの強化がまだ何度でも使える、

「ってことはまた使われたらジリ貧か……」

「いや、もう使えないけど?」

 寛介のつぶやきに少女があっけらかんと答えた。

「は?」

「あんなスキルが常時使えるわけないじゃない。効果時間は五分、次使えるまで十二時間かかるよ」

 少女の手から剣が消える。

「あーあ、残念だなあ。やっぱり力づくは向いてなかったか、君の勝ちだよ」

 少女がそういうと、寛介の手に先ほどまで少女の手にあった剣が現れる。

「何のつもりだ?」

「君の勝ちだって言ったじゃない。それで私を刺したら夢から覚めるよ」

「そうか……」

 寛介は剣を少女に向けて歩き始める。


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