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31 お礼

「なんでこうなった」

「全然信じてもらえませんでしたね」

 強い風がピューッと寛介とノノに向かってふきつける。二人は寛介が王国の動きを口にした途端に、笑わせるなと周りの兵士に叩き出されてしまった。フリードにも確かに伝わったはずだが、信じている様子は無かった。

「うーん、どうしたものかな」

 寛介は頬をポリポリとかきながら呟いた。立ち尽くしていると、寛介たちは横から声をかけられた。

「おや、さっきのお嬢ちゃんにお兄ちゃんじゃないか、どうかしたのかい?」

 冒険者に因縁をつけられていた老婆であった。老婆は寛介の考え込む様子を見て声をかけてきた。

「お婆さん、いや……」

 寛介はお婆さんに事情を説明することに迷った、変に不安を与えるのは得策では無いと考えたからだ。寛介が口籠ってると、老婆は笑いながら口を開いた。

「言いにくいこともあるからねぇ、ところでさっきのお礼にお茶でもどうだい?」

「いや、そんな大したことしたわけじゃないし――」

 寛介が断ろうとすると、老婆の顔が暗くなる。それを見たノノが横から割って入る。

「あ、あの! カンスケ様、うち喉が渇きました!」

 わかりやすく老婆の顔が明るくなる、老婆はノノの腕を取って、

「そうかい? ならうちにおいで、美味しいお茶にお菓子もあるからね」

 という。そして老婆とノノは、寛介をおいて歩いていってしまった、寛介は仕方なく二人を追っていった。


 西の門から少し歩いたところに老婆の屋敷があった。老婆に案内されるがままに二人は屋敷の中に入る。屋敷の中には他に誰もおらず、老婆はその屋敷に一人で住んでいるようであるが、屋敷の大きさは老婆が一人で住むには広すぎるように感じられた。

「好きなところに座っておくれ、見ての通り広さだけが自慢の屋敷だからね」

「はい、失礼します!」

「おーいノノ? こんなことしてる場合じゃないだろう?」

「で、でもカンスケ様、お婆さん悲しそうな顔してましたよ」

 二人がそんな会話をしていると、老婆がお茶と饅頭を運んでやってきた。

「さあ召し上がれ」

 老婆はとてもニコニコしている。寛介は仕方なくご馳走になることにし、饅頭を一口かじりついた。

「美味い……」

「本当に美味しいです!」

「昔の癖でついつい作りすぎちゃってねぇ、おかわりもあるからどんどん食べてね」

 最初は少し食べたらお暇しようと考えていた寛介であったが、あまりの美味しさに二個三個と手が進んでいた。

「お婆さんはこの家にずっとお一人なんですか?」

「お、おいノノ?」

 あまりに不躾な質問に寛介が焦っていると、老婆は気にした様子もなく答える。

「いいんだよお兄ちゃん、そうだよ、まぁ少し前まではここも賑やかだったんだけどねぇ」

 どうやらここは孤児院だったらしく、昔は身寄りのない子どもをここで世話していたそうだ。老婆も年を取ってしまい体も昔ほど自由に動かなくなったことから、数年前に最後の子どもが自立してからは孤児院を閉めて隠居生活を送っているという。

「だけど最近は張り合いが無くてねぇ、体は楽になったけど心が老いた感じがするよ」

「お婆さん……」

「ごめんねぇ、辛気臭い話しちゃって。さあさあ、まだまだあるからね、好きなだけお食べ」

 お茶を頂きながら、老婆のよもやま話を聞いていると、玄関から声が聞こえてきた。

「ただいまーマリア婆ちゃん。ん? 誰かいるのか、客人なんて珍しいな」

「あらあら、まあまあ」

 マリアと呼ばれた老婆の顔が明るくなり、玄関まで駆けていった。

 玄関の方から二人の会話が聞こえてくる。

「フリッツ、さっきはありがとねぇ」

「何言ってんだマリア婆ちゃん、婆ちゃんを助けてくれた恩人なんだから当然だろ」

「ちょうどよかった、その恩人さんが今、中にいるんだよ、あんたが好きだった饅頭もたくさんあるからちょっとあがっていきな」

「え、中にいるのか? いや、婆ちゃん俺は」

「良いから良いから、早くあがりな」

 マリアが戻ってくると、その隣にいた人物に寛介は驚いた。

「フリード……さん?」

「や、やあ、さっきぶりだ、冒険者殿」

 フリードが苦笑いをしながら寛介に手のひらを見せた。


 フリードは数年前にマリアの孤児院から自立した青年であった。フリードは自立後、帝国軍に志願した。その後、メキメキと頭角を現し、つい最近少将を任じられたという。先程、寛介が簡単に開放されたのはマリアがフリードに頼んだためであった。

「完全に公私混同だからね、内密に頼むよ」

 おちゃめに笑うフリードのその顔は、城内で見せていた顔とは違い朗らかなものであった。

「あ、はい……、いやそれよりもフリードさん、さっきの話なんだけど」

「ああ、王国の勇者が攻めてくるって話だね。いくら婆ちゃんの恩人でもあそこで、はいそうですかって信じるわけにはいかなかったんだ、俺……、私個人としては君たちの話を信じてやりたいんだが」

 フリードが続けざまに口を開く。

「そもそも君たちは一体何なんだ? なぜそんな情報を持ってて、しかもそれをわざわざなぜ帝国に?」

 フリードに問い詰められて、寛介はなんと答えていいか迷った。勇者として王国に召喚されたと正直に言えば、スパイと認定される最悪のケースが想像される。寛介が言いよどんでいると、横からマリアが声をかけた。

「フリッツ、誰にだって言えないことぐらいあるさ。私にはこの子達が嘘をついているようには見えないね」

「婆ちゃん、だけど――」

 フリードが言い終わる前にマリアが優しく諭す。

「あんたの仕事に口を出す気はないよ。だけどここは帝国の城下町じゃないんだ、せめて帰ってきたときぐらいはただのフリッツでいておくれ」

 マリアにそう言われたフリードはもう何も言えなくなり、黙り込んだ。その様子を見た寛介は意を決して口を開いた。

「フリードさん、俺もちゃんと話すよ――」

 召喚されて帝国に来るまでの経緯を寛介は全て話した。表情をコロコロと変えながら話を聞くマリアに対して、フリードは表情を一つも変えること無く黙ったまま聞いていた。


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