3 ウィンウィン
寛介は牢屋から出され、王子の私室に案内された。王子というだけあってか、部屋は豪奢できらびやかに飾り付けられていた。
「好きにかけてくれ、お茶は出せないけどね」
王子ははにかみながらそういい、寛介の前にかけた。
「私はマクスウェル・バルスタ、第二王子だ。」
寛介は怯えた声で王子に問う。
「王子様は、俺を殺さないんですか」
「殺さないよ、信じられないだろうけど。それにしても王子様や敬語はやめてくれ。年も近いし、そうだなマックスと呼んでくれ。君の名前を聞かせてくれるかい?」
「俺は、神矢寛介、よろしく」
寛介は恐る恐るマクスウェルに名前を伝えた。
「カンスケ、いい響きだ。」
「マックスが俺を助けたのはただの善意じゃ、無いよな?」
マクスウェルの目が鋭くなる。だが冷たい雰囲気ではなく、口元には笑みを浮かべている。
「頭が、割りと回るようだね。そのとおりだ、お願いしたいことがあって君を助けた」
「お願い?」
こんな情況でお願いだと、脅迫の間違いじゃないのかとでも寛介は言いたそうだ。
「ははは、そうだよな、脅迫にしか聞こえないよな。卑怯なのはわかっているがこれはウィンウィンの取引になると思う」
「俺は生きられる、マックスは駒が増える。なるほど第二王子が関係してるのか」
「正しくもあり、間違ってもいるね。少しこの国の状況を説明しようか」
マクスウェルはバルスタの情況を語り始めた。
「今この国では、統一派と融和派に意見が分かれているんだ」
ソロンや冥界軍の支配地域を王国のものとせんと各方面に挑発や威圧を繰り返し、そのせいか各地で衝突が絶えないという。
「賢者殿と第一王子である兄はこの統一派に与しているらしい」
融和派は現状維持、発生した魔物を協力して駆逐、瘴気を抑える方法の協同研究等、過去のしがらみを捨てて世界をよくしようとする方針で行動しているため統一派からすると邪魔で仕方がないという。
「私がこの融和派の旗頭となっている。ソロン国の者や魔族に殺された国民の気持ちは痛いほど理解している。だがこのままではまた、多数の犠牲が出てしまう。私はそれだけは避けたいんだ」
「マックス……、それで何で俺に目をつけたんだ?」
「今回の異世界からの召喚、どうもきな臭いんだ」
現王は統一派でも融和派でもないが、バランスの良い政治を行っており、やり手の賢王である。ソロンや冥界軍との関係性も良好で、一部ではあるが冥界軍との国交なども開かれてきていた。
「そんな中で冥界軍が侵攻してくるだろうか、どうにも私にはそう思えない」
噂が流れてくると統一派は、人間が魔族の考えなんて理解できるわけがない、攻められてからでは遅い、軍備を整えるべきだとの主張で召喚を行おうとしたらしい。
「言っていることに理解できる点もある。しかしバルスタには既にいるんだ、勇者が。正確には」
正確には勇者はいたんだ。マクスウェルは悲しげな目でそう言うと言葉に詰まった。
「死んだのか?」
「死んではいない、今この国にはいないけどね」
統一派に与しない勇者に痺れを切らし、ガウスは勇者の暗殺を命じた。暗殺は失敗に終わったがこの国に見切りをつけて勇者は野へ下ったらしい。
「そんな状態で統一派が異世界召喚を主張しても筋が通らないということで現王は召喚を保留にしたんだ」
「だけど俺が召喚された、王の命に背く形で……か。おいおい、やばくないか?」
寛介は焦ってマクスウェルに言った。
「マックス、王様は無事なのか?」
マクスウェルは微笑んでいった。
「やはり君は賢いね。王は、父上は死んでいたよ」
王はベッドの上で眠るように亡くなっていたらしい。
「やっぱりガウスの仕業なのか?」
「わからない、だけど可能性は高いと思う。苦しんだ様子が無かったのが唯一の救いかな。そして君は、明日王を殺害したとして処刑される」
異世界から召喚された勇者候補を理由なく処刑すると民意が離れていく。しかし、それが王殺しであるとすれば問題なく処刑できる。その後再召喚を行うという寸法だ。
「一石二鳥だな。王の命に背いたが、その王の敵を討った形であやふやにして、背いた理由は後付で何とでもする。更に王に即位して勇者を再召喚して手駒を増やすってことか」
「きっとこの国は、この世界は近いうちに戦争を始めるだろう、それだけは避けなければならない。そのためには兄の即位を阻止しなければならないんだ」
「マックスも知っての通り俺の加護は[無能]だ。役に立てるとは思わないんだが」
何をするにしても能力のない自分は役に立てないだろうと自虐する。しかし、マックスは真っ直ぐ寛介を見つめて言った。
「それでも、私は君に頼るしか無い。どうか一年の間に国から出られない私の代わりに賢者殿や兄の尻尾を掴めるような情報を探してきて欲しい」
バルスタのしきたりでは王の死後は一年間喪に服し、政治は王位継承権を持つ者たちで手分けして行うことになっている。一年後に王位選挙を行うが、原則は第一王子の信任投票であるらしい。そこで王たる資格なしという証拠を提出することで第一王子の即位を阻止できる。マクスウェルは頭を下げ言った。
「どうか頼む。私とこの国を助けてくれないか」
「わかった、やれることはやってみるよ。だけどその前に――」
寛介が言い終わる前にマクスウェルが言った。
「まずはソロンに向かうといい。妹御の無事を知りたいんだろう? その道すがらでも有益な情報があればこれを使ってくれ」
寛介は小さな宝石があしらわれた指輪を受け取り右手の親指に装着した。
「これは?」
「遠距離でも念話ができる魔具だ。私のものとペアリングしてある」
『力を込めればこのように念話ができる』
「うお!?」
『君にしか聞こえないし、君の念話も私にしか聞こえない。一度使ってみてくれ。感覚は鑑定珠に力を込めたときと同じでいい』
「なるほど」
寛介は指輪に血流を流すイメージを込めた。
『こうか?』
『オーケー。完璧だよ』
マクスウェルは次にウエストバッグを寛介に手渡した。
「少しの金と魔具を入れておいた。使い方や消耗品の相場を書いた羊皮紙も入れてある」
話をしていると部屋の外が騒々しくなってきた。兵士たちが騒いでいるようだ。
「あと、このダガーをもっていってくれ」
マクスウェルは刃体の中心部分に赤く染まった宝石が埋め込まれたダガーとその鞘を手渡した。
「私の母方の家に伝わる宝剣だ、どうか役立ててくれ」
「マックス、そんなの大事な物――」
「大丈夫、すべてが終わったときに返してくれ」
「そもそも俺が裏切るかもしれないぞ」
「君を、カンスケを信じる」
騒ぎが大きくなり王子の部屋に足音が近づいてくる。
「さぁ行ってくれ、カンスケ。その窓から外に出られるはずだ」
「あぁマックス、やれるだけやってみるよ」
カンスケは窓から飛び出し、闇夜を走り始めた。
「頼んだよカンスケ。あっ」
マクスウェルは最後に大事なことに気がついた。
「ソロンの方向を伝え忘れていたなぁ、そういえば……」
ガチャと王子の部屋の扉が開いた。
「マクスウェル様! 地下の勇者候補が脱走しました、兵士二名を殺害し逃走した模様です」
マクスウェルは兵士に向かっていった。
「そうか、まだ王城内にいるかもしれない、全力で探し出すんだ!」
王の死もじきに発覚するだろう、この後の嵐を想像しながらも、マクスウェルは決意を新たに部屋から出た。
2017年12月18日 ご指摘をいただき皮肉→自虐に変更しました。
ありがとうございました、今後もご指摘よろしくお願いします。
ダガーの描写が足りませんでしたので追記しました。
2018年09月07日 派閥の表記に間違いがありましたので訂正しました。