26 救出
――死の寸前に思い浮かんだのは二人の少女だった。
(美子、ノノ、ごめんな)
次第に自分の体が冷たくなって行くのを感じる、次第に痛みも感じなくなって――
「ぐっ、あああああ!」
いかなかった。逆に寛介の体に激痛がはしり、それに合わせて体も温まっていくのがわかった。
「ああああ、痛いっ! これってヒール!? なんで!?」
寛介は悶絶しその場で転がり回る。ヒールのお陰で傷は治っていくが、その分の痛みが襲ってきた。
「ああ!? 誰だ!!」
バーサクがあたりを見渡しながら叫ぶ。
「そんなに警戒しなくていい、ただの通りすがりの占星術師だよ」
寛介が目を見開いた、カナエがなぜここに、いや、それだけではない、
「ノノ、お前、なんで戻ってきた!」
「か、カンスケ様……、ごめんなさい、うち、どうしてもカンスケ様と一緒に……」
涙を浮かべて言うノノに、寛介はそれ以上何も言えなかった。
「馬鹿野郎……」
横からカナエが割って入る。
「おいおい寛介……、私を無視するとはいい度胸じゃないか」
「いや、色々処理が追いつかなくて、カナエさんもどうしてここに?」
更に横から割って入る者がいた、バーサクである。
「おいお前ら、俺を忘れてんじゃねぇのか? ガキ、傷が治ってよかったなぁ、もう一度殺してやるよ!」
「黙ってな、お前は後でゆっくりと相手してやる」
「!?」
カナエが静かにそういうと、バーサクの体は縛り付けられたかのように動かなくなった。バーサクは驚きの表情を隠せない。
「少しは腕を上げたみたいだが、流石にまだこういう奴の相手は難しいか、助けに来たぞ、寛介」
「カナエさん……」
バーサクがゆっくり動き始める、小さな声ではあるが口を開いた。
「くそっ、お前、何者だ、俺に何をした……」
カナエがバーサクを冷たい目で見据えて口を開いた。
「おい、選ばせてやる、私の伝言をガウスのやつに運ぶか、ここで死ぬか」
バーサクの体がビクッとはねる、本能がカナエとの実力差を感じ取り、狂化状態も解けている。
「脅しに屈するとでも? 甘――」
ドシュと鈍い音が響く、カナエの手がバーサクの腹部を貫通していた。カナエはそのまま腕を横に振ると、バーサクを吹き飛ばした。木に激突したバーサクはその木にもたれかかるように座り込んだ。傷口からは多量の出血だけでなく、臓器も漏れていた。
「ガッ……、ヒュー、ヒュー」
「困ったね、別に脅しのつもりはないんだけど理解力がないならわかるまで説得しようかな」
一撃で瀕死である、バーサクは出血多量でショック状態に陥っていた。カナエがバーサクに手をかざすと、
「あががあああ、うああ!」
ヒールをかけ、傷を直していく、ダメージに応じた苦痛がバーサクを襲っている。
「楽に死ねると思うなよ? 苦しめて苦しめて、十分に後悔させてから殺してやる」
カナエはバーサクの胸ぐらを掴み、力づくで持ち上げ、地面に叩きつけた。更に足を掴んでブンブンとバーサクを振り回す、次第にバーサクはボロ雑巾のようになっていく。全身の骨が砕ける音とともに、バーサクの意識が遠のいていく。だが死ぬことはできない、寸前でヒールがかかり、苦痛とともに傷が治っていくからだ。
「気が変わったらすぐに言っていいぞ、いつでも聞いてやる」
既に心が折れていたバーサクは口を開こうとするが、カナエは構わずに次の拷問にうつる、瀕死になってはヒールを繰り返し、バーサクが口を開く隙を与えない。それはまるで口を開かせる気がないようにも見えた。
凄惨な拷問が三十分ほど続いた、満足したのかカナエは手を止める。ようやく口を開けるようになったバーサクが情けない声で口を開いた。
「も、もう、や、やめてください、伝言を、承りますから」
カナエはニコっと笑ってバーサクへ近づく。
「物分りがいい子は好きだよ、伝言は一つだ、これ以上調子に乗るなら星がお前を道連れにする、こう伝えといて」
バーサクはコクコクと首を振った。体がブルブルと震えている。
「なら早く行け」
「は、はい!」
足腰が立たないのか、バーサクはブルブルと震えながら森の中へ消えていった。
場を静寂が支配する。寛介とノノはあまりの恐怖からドン引きしていた。
「ふう、怖かったなぁ、どうなることかと思ったよ」
「こっちのセリフだ! あんなエグいの見せやがって、ノノがドン引きしてるぞ!」
寛介がカナエに噛み付く、カナエはやれやれと手を上げながら首を振る。
「はいはい、寛介こっちに来な」
「? なんだよ――」
カナエが寛介の腕を掴み引き寄せると、おもむろに抱きしめた。寛介の顔がカナエの柔らかな胸に埋まる、寛介が逃れようと暴れるがカナエの力により叶わなかった。
「生きててよかった。心配したぞ」
「ありがとう、カナエさん……」
諦めた寛介は抵抗をやめ、身を任せるように体をカナエに預ける。
そんな風に寛介がカナエのなすがままになっている様子を見たノノは、
「うう、やっぱりカンスケ様は大きいおっぱいが好きなんですね……」
と聞こえない程度の大きさで呟き、何度も自分の胸とカナエの胸を見比べて、ため息をついていた。