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25 星の導き

 ノノは月と星の明かりを頼りに走っていた。涙を目に浮かべながら、必死で走る。止まれば泣いてしまう、走れなくなる、それは寛介の意志に反する、息が上がっているのも構わず走り続けていた。

 どれくらい走ったであろうか、いくら獣人が人間よりも丈夫な呼吸器を持つとはいえ、いつまでも走り続けることができるわけではない。限界を迎えたノノは立ち止まってしまう、すると涙が自然に溢れてきた。

「はあ、はあ、うう……、カンスケ様……」

 涙を流しながら名前を呼ぶが、当然返事はない。

「……」

 しばらく放心していたノノだったが優れた感覚器官が魔獣の気配を感じ取る。

 現れた魔獣は双頭の魔獣、オルトロスであった。ノノは双剣を抜こうとするが、何を思ったのか柄から手を離す。

「カンスケ様がいない世界で、うちは生きたくない……」

「グルル……」

 オルトロスが喉を鳴らしながら近づいてくる。

「生まれ変わってもまた会いたいなぁ」

「ガア!」

 オルトロスが飛びかかってくる、勢いでノノは押し倒される。オルトロスの顔が近づいてくる、ノノは来るであろう痛みを想像して顔をしかめるが、感じたのは痛みではなく生暖かい感触だった。

 オルトロスはノノに噛み付くのではなく、ペロペロと顔を舐め回している。

「んっ! な、なんですか、なめないで、臭いっ!」

「キャウン」

 ノノはオルトロスを突き放した、ダメージはないはずだが、臭いと言われたことがショックだったのかオルトロスが少しシュンとしている。

「くくく、臭いだってさ」

 気づくとオルトロスの向こうに青髪の美女が腰に手を当てて立っている。

「だ、誰ですか?」

「私? 寛介から聞いてないのか、占星術師をしているカナエっていう者だ、よろしくねノノ」

 ノノは寛介の名前に反応する。

「カナエさん……、カンスケ様をご存知なんですか? それに何でうちの名前……」

「くく、星の導きだよ。それはともかく、寛介はどこだい?」

「カンスケ様は――」

 ノノは先程までの出来事をカナエに話し始めた。

「そしてうちを逃してくれたんです」

「なるほどねぇ。ところであんた、寛介の言ったことを本気にしてるのかい?」

 ノノはブンブンと首を振った。

「カンスケ様はお優しい人です、うちが逃げやすいようにああ言っただけだと思います」

「ふーん、にも関わらずあんたはオルトロスにわざと殺されようとしたんだね?」

「それは……カンスケ様がいないならうちは――」

 その場にパシンと乾いた音が響いた。ノノの頬に鋭い痛みがはしる。カナエがノノの頬を張った音である。

「へっ?」

「いい加減にしろ! 寛介はあんたのために死地に残ったんだろ、なのにあんたがその命を投げ捨てるのか?」

 カナエがノノの肩に両手を置いて、目線を合わせて言った。

「それは逃げだよ、自分のせいで寛介が死ぬことに対する罪悪感からの逃げだ」

 ノノの瞳から大粒の涙がこぼれ始める、カナエはノノを抱きしめた。

「うう、ごめんなさい、ごめんなさいカンスケ様」

 カナエの大きな胸の中でノノが泣き叫んでいるのを、カナエは頭を撫でながら見つめていた。


 数分後、落ち着いたノノは泣き止んだ。それを見たカナエは口を開く。

「落ち着いたかい?」

「はい、カナエさん。うち、カンスケ様のぶんまでも強く生きたいと思います」

「本題はここからだよノノ。寛介はもう死んだのかい?」

 カナエがノノの首輪を見ながら尋ねた。ノノは首を傾げる。

「ど、どういう意味ですか、うちが逃げたときはまだご無事でしたけど、あのままだと……」

 ノノはまたもや涙目になり、声も掠れている。カナエが手を振りながら口を開いた。

「あんたのそれ主従契約用の魔具だろう? 主従契約はどちらかが死ねば解消される仕組みなっているはずだ、今契約はどうなってる?」

 ノノが首を振る。

「そんなのわかりません、契約がどうとかうちには――」

 はっとノノが何かに気付いた、そして目をつぶり何かを必死で感じ取ろうとする。そしてボロボロと涙をこぼした。

「まだ生きてます、確かに感じます!」

「方向はわかる?」

 ノノが西を指差す。

「こっちをずっと行ったところです」

 カナエがニヤリと笑った。

「そう、なら行こうかな。バカな弟を助けに」

「!? カンスケ様のお姉さんなんですか?」

 カナエの顔が少し赤くなる。

「あー、それは言葉のあやだ。こほん。さて、あんたはどうするんだい?」

「えっ?」

 ノノが驚きの声を上げる。

「さっきはああ言ったけどさ、私は男のワガママに女が付き合ってやる必要はないと思うよ。女はワガママを男に聞かせるもんだ、死にたくなるほど一緒にいたかったんだろ?」

「カナエさん……うちは……」

「ガウ」

 オルトロスがノノの横に現れる。

「珍しいねオルトロスが背に人を乗せようとするなんて」

「オルトロスさん……、うちカンスケ様のところに戻りたいです!」

「決まりだ、ならオルトロスにしっかりとしがみついてなよ」

 ノノがオルトロスの背に乗ると、カナエがものすごい勢いで走り始めた、明らかに人間の速度ではない。オルトロスも遅れないように走り出す、ノノは振り落とされないようオルトロスの背にしがみつくので精一杯であった。


明けましておめでとうございます。

今年も更新頑張りますので暖かい目で読んでいただけるとうれしいです、よろしくお願いします。

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