23 迷宮踏破
「なんにしても再生能力が厄介だな」
改めてゴーレムに向き直る寛介であるが、ゴーレムは動く様子がない。どうやら宝箱から一定距離離れれば動きが止まるようだ。
「まるで宝箱を守ってるみたいですね」
「ああ、迷宮で宝箱を守ってるなんて話、まるでRPGだ」
「あーるぴーじー?」
「いや、なんでもない」
寛介が立ち上がった。
「ノノはここから動くなよ、さすがに飛んでくる礫すべてから守り切れそうにない」
「すみません、うちが力不足なばかりに迷惑を」
寛介がノノの頭を撫でながら口を開いた。
「そんなことない、さっきの傷だってノノがいなければ危なかった、ノノがいてくれてよかった」
「ひゃ、ひゃい、ありがとうございます」
ノノの顔が真っ赤に染まる。
寛介はゴーレムに向かって駆け出した。
「考えろ、絶対に何か仕組みがあるはずだ」
ゴーレムの攻撃は十分に回避できるものだった。あの広範囲攻撃も寛介一人であれば十分に回避できる、注意すべきはノノへの射線だけである。
「とりあえず、寝てろ!」
攻撃の隙をついて懐に入り、[鎧通]を使用する。足を失ったゴーレムは先程と変わらず崩壊した。寛介はゴーレムだった物から離れ、観察を行った。すると先ほどと同じ黒い光がゴーレムに集まっていく。
「なんだ?」
光は一つの岩に集まり、その岩を中心に周囲の土や砂が集まっていった。そして再度ゴーレムが復活する、ゴーレムは寛介を遠ざけようと腕を振り回した。
「なるほど、そういうことか」
寛介は何かを察した。ゴーレムは寛介に向かって拳を繰り出し続ける、それはまるでゴーレムが焦っているかのようにも見えた。
「遅い!」
ゴーレムの繰り出す拳を避け、再度懐に飛び込んだ寛介はゴーレムを崩壊させた。ゴーレムの再生が始まる、黒い光が岩に集まっていくが寛介がすかさず、
「これで終わりだ!」
黒い光が集まっていく岩にダガーを突き立てた。岩は砕け散り、集まりそうになっていた黒い光も霧散した。
「はあ、はあ、どうだ!?」
身構えながら観察するが、ゴーレムが再生する様子はない。
ノノが駆け寄ってくる。
「お怪我はありませんか!?」
「ああ、わかってみれば単純だった」
「さすがです、カンスケ様!」
「それにしてもこれで終わったのか?」
「どうでしょうか、あんまり様子は変わらないみたいですけど――」
二人が会話をしていると、宝箱が輝き始める。
「!? なんか光ってます!?」
「とにかく行くぞ」
宝箱の前まで移動する。光は宝箱の全体から広がっていた。
寛介が恐る恐る手を近づけると、宝箱自ら蓋を開く。
開かれた宝箱から日の光のようにとても温かい光が広がる。
「うお!?」
「きゃっ!」
光が寛介とノノを包んでいく、二人の視界が光によって埋め尽くされ、意識が遠くなっていった。
二人が視界を取り戻すと、川沿いから少し森に入った場所にいた。
「大丈夫か、ノノ」
「はい、カンスケ様、うちたち出られたんですね」
「ああ、そうだな」
「カンスケ様、それは?」
ノノは寛介が手に持った物を見て尋ねた。寛介の手には取り回しの良さそうな長さの漆黒の剣が握られていた。
「ああ、意識が戻ったら背負ってた、ノノ、お前もだ」
寛介が指をさす。ノノの腰に双剣が括り付けられていた。
「ええ!? あ、ほんとですね!」
ノノが双剣を抜いてみると、刀身が黒と白の対になった短剣であった。
「おそらくだけど、宝箱の中身だろう」
「不思議な感じです、初めて触るのにずっと前から使ってたみたいに手に馴染んで、体の動かし方がわかる……」
ノノが双剣を振っている、その姿はとても初めてとは思えないほど鮮やかだった。
「ふう、えへへ、これでもっとカンスケ様のお役に立てそうです!」
一息ついて可愛らしく言うノノの頭を、寛介が撫でる。
「じゃあ行くぞ、もう少しだけ進んで今日は休もう」
「はい、カンスケ様!」
二人は日が暮れるまで進んだ後、森でキャンプすることにした。
「明日はどこまでいけますかね?」
食事の用意をしながら口を開いた。しかし、寛介からの返事はない。
「カンスケ様?」
返事がないのも当然で、寛介は寝てしまっていた。気を張った疲れからか、熟睡している。ノノは寛介の寝顔を覗きながら微笑む。
「ふふ、起きてる時は凛々しくてカッコイイですけど、寝てるカンスケ様、なんだか可愛い」
ノノは寛介の頬や鼻を人差し指で突いて遊ぶ。だが寛介が起きる気配はない。
「カンスケ様、もうすぐお食事の準備ができますよ、起きてください、起きないと」
ノノがカンスケの唇に自分の顔を近づけていく。
「キスしちゃいますよ、なんちゃっ――」
突然寛介の体が前に倒れてきた拍子に、二人の唇が重なる。
「!?」
ノノは転がるように後ろに下がる、その顔は真っ赤に染まっていく。
「あ、あわわ」
「んっ、ふぁあ……。ノノ? どうした口を抑えて、舌でも噛んだのか?」
寛介が目を覚ました、どうやら事故には気付いていないようだ。
「え、あ、な、なんでもありません! カンスケ様、お食事がもう出来上がりますよ!」
「? 何かあったのか?」
「な、なにもありません! ありがとうございます!」
「ありがとう? どういたしまして?」
食事が終わり、寝床につくまでノノの顔の色がもとに戻ることはなかった。