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20 不注意

 森に入った二人は忘れないうちに主従契約の魔具を使用することにした。

「契約条件か、あの二人と同じで呼び名とかにするか?」

「それは嫌です!」

「なんで?」

 寛介が訝しげに尋ねる。

「いやぁ、だって二人の関係の発展で? 旦那様~とか、あなた~とか色々呼んでみたいですし」

 ノノがぶつぶつと言うが、寛介の耳には届いていない。

「え? もっと大きな声で話せよ」

「な、なんでもありません」

「とりあえず、俺から離れないとかでいいか」

 ノノがぱっと明るくなった。

「それで、それで行きましょう! 是非、指輪は左手の薬指につけてください!」

「? ならとっととやるか」

 ノノは首輪をつけ、その首輪の錠の部分に左手の指輪を近づけて魔力を込めると二人の頭のなかに声が聞こえてくる。

『汝ら、主従の契約を結ぶか』

「ああ」

「はい!」

二人は揃って返事をする。

『主寛介は従者ノノに何を求める』

「俺から離れないこと」

『了承した、罰則は定めるか』

「定めない」

『了承した、これで契約は終了した』

 契約が終了すると、寛介は指輪から不思議な感覚を感じた。

「なんか指輪から感じる、これはノノか?」

「はい、うちも首輪からカンスケ様を感じます、契約の作用みたいですね」

 二人はお互いの位置や距離が感覚的に理解できるようになった。離れないことを遵守させる、するためにはお互いに距離がわかる必要があるということだろう。

「わかってると思うけど、別にお前を奴隷にしたわけじゃないからな?」

「はい! わかってます!」

 妙に嬉しそうなノノの様子に寛介は首をかしげながらも、先に進むことにした。


 川沿いに歩いていると、ノノが立ち止まる。

「カンスケ様、何か聞こえませんか?」

「ん?」

 寛介も立ち止まり、耳を澄ませる。

「――れる!――けて!」

 確かに森の中から何か声が聞こえる。更に耳を澄ませるとはっきりと声が聞こえてきた。

「誰か! 魔獣に殺される! 助けて!」

 助けを求める声が森の中から届いた、二人は顔を見合わせる。

「カンスケ様……」

「様子を見に行くか、しっかりついて来いよノノ」

 二人は声の聞こえた方角へしばらく走っていくと、そこには魔獣がいた。

「オーク! カンスケ様、あそこに……」

 ノノは青ざめる。オークは豚の顔を持ち、緑色の大きな体躯をした魔獣である。

「ああ、人が捕まってるな」

 オークの手には男が握られていた、助けを求めていた人物だろう。オークは、寛介たち二人に目もくれず、背を向けて引き返していく。

「そこのお方、助けてください! いやだ、死にたくな、ぐぇっ!」

 捕まっている男が助けを乞うている、オークが強く握りしめたのか、嗚咽を漏らした後、口を閉じた。オークはどんどんと森の奥へ進んでいく。

 二人はオークを追って森の奥へ進んでいった。しばらく追っていると、オークの姿が霧のようになって消えた。そこには捕らえられていた人間も姿はなく、ただ鬱蒼とした森が広がるだけであった。

「消えた?」

 寛介があたりを観察していると、ノノが座り込んだ。

「どうしたんだノノ」

「カンスケ様、うちなんだか気持ち悪いです」

 寛介が駆け寄り、ノノの背中をさすってやる。しばらくすると落ち着いたようで、ノノが口を開いた。

「ここ、なんか変です」

 寛介が首肯する。

「そうだな、これがカンダさんの言ってた瘴気溜まりか、背筋がさっきからゾクゾクしてる。どうだノノ、動けそうか?」

「はい、少しですけど体も慣れてきた気がします。ご迷惑おかけしました」

 寛介が立ち上がり周囲を見回す。

「ノノ、俺たちどっちから来たか覚えてるか?」

 ノノが首を横に振り、暗い顔で答える。

「すみませんカンスケ様、うち追いかけるのに夢中で……」

「いや俺のミスだ。今考えてみると、もう少し早く気付くべきだった、おかしな点は確かにあったのに……」

「おかしな点ですか?」

「ああ、森の奥から叫んで外にいる俺たちにあんなにはっきりと声が届くか?」

 寛介は推測を続ける。

「それに俺たちを待ってたかのように、背を向けて歩いて行ったオーク」

 ノノは頑張って理解しようとしているのか、押し黙っている。

「そしてオークが消えたら迷宮の中、まんまと誘われたってことだ」

 瘴気溜まりは意志を持っており、それによって発生する迷宮そのものが魔獣の一種ともいわれている。迷宮は維持、拡大するためにさらなる養分を欲するようになる。迷宮は狡猾で、誘い込む人間が無視できない疑似餌を撒く。寛介たちが見たオークと襲われている人は幻覚で、二人を釣るための迷宮が用意した疑似餌だった。

「あの冒険者たちは運が良かったってことだな、こんなところから命からがらとはいえ脱出できたんだから」

 ノノが不安そうな顔で寛介の名前を呼ぶ。

「カンスケ様……」

「俺たちは、入り口からは出られそうにないな。迷宮をクリアするしかないだろう。大丈夫かノノ?」

 ノノは震えているが、それを寛介に悟られまいと強がる。

「だ、大丈夫です。うちはカンスケ様がいれば何も怖くありません」

「そうか」

 寛介はノノを抱きしめる。突然のことに、ノノが顔を赤くする。

「か、か、カンスケ様、こ、これは?!」

「ごめん、俺は少し怖い、暫くこうさせてくれ」

 ノノは寛介の弱気に驚くが、何も口に出さず、

「はい、うちでよければお好きなだけどうぞ」

 と微笑んで言い、抱きしめ返した。

 数分間二人は抱きしめあっていたが、我に返った寛介は恥ずかしくなったのか顔を赤くしてノノに言う。

「あ、ありがとうノノ。もう大丈夫」

「そうですか? でもうちはまだまだ大丈夫ですよ?」

 てへへと可愛く笑いながらさらに強く抱き着くノノであったが、寛介が立ち上がろうとするので、名残惜しそうに離れた。

 立ち上がった寛介はノノに手を差し出して言った。

「よし、迷宮を踏破するぞ、ノノ」

 ノノは手を握り、引っ張られて立ち上がって言った。

「はい、カンスケ様!」


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