2 絶望と希望
賢者の女神像は何もない白い壁の大部屋に置かれていた。大きさは寛介の身長よりも若干大きい程度で胸元に赤い宝石が込められている。
「それでは儀式を初めます。勇者候補よ、宝石に左手を当てて祈りなさい」
「っ……よし……」
怯えた寛介が言われるがまま左手を当てると、宝石を中心に赤い光が広がっていく。
『力を欲するか。汝、賢者の眷属となりて魔を打ち払わんと望むか』
寛介の耳に像の声だろうか、優しい声が届く。不思議と先程からの怯えが消えていく気がした。
『答えよ』
「……欲しい。俺に力をくれ!」
赤い光が寛介の目を覆い尽くす。視界はなくなり、音も聞こえなくなっていく。
『汝、強く生きよ……』
優しい声が少し暗く聞こえた気がした。
「お目覚めですか、勇者様」
ガウスが寛介に跪いていた。周りの兵士も最大限の敬意を示していた。
「儀式は? どうなったんだ? それに勇者様って……」
「加護は無事に宿りました。今から鑑定を行います、魔具をここへ」
ガウスが指示すると、兵士はガウスに透明な水晶玉を手渡した。
「それは?」
「これは鑑定珠。加護やステータスを鑑定するための魔具です」
ガウスは魔具を寛介に手渡す。
「水晶を両手で持ち、水晶に力を込めてください」
寛介は水晶に力を込めるが特に水晶に反応はない。
「違います。腕力ではなく、そうですね、手のひらから自分の血を水晶に流し込むイメージです」
言われた通りにやってみると水晶が割れ、中から羊皮紙が現れる。
「……ギフトが確定しました。勇者様の加護は[無能]です」
「は?」
――目の前が真っ白になる、無能? 何だそれ聞いてないぞ。
羊皮紙にはこう書かれていた。
[無能]
強く生きよ。
成長補正:体力C- 筋力C- 敏捷C- 精神力C- 運C-
適職診断:特になし
特殊スキル:
「……は?」
「……ま、まぁとにかく。今日はお疲れでしょうし、お休みください」
ガウスは先程よりも優しげな声で寛介に伝えるが、あまりのショックで気絶した寛介には聞こえていないようだ。
「おい、勇者様を寝床へ運べ」
兵士は担架を使い寛介を運び出した。兵士の中の一人でガウスの側近であろう男が耳打ちする。
「よろしいのですが、どう見ても外れでは?」
ガウスは寛介を諌めたときよりも激しく冷酷な目で言った。
「死んでもらうしかあるまい。再召喚だ」
牢屋に寛介が寝かされており、門番だろうか二人の兵士が立っている。
「再召喚だってよ。この勇者は処分するらしい」
「再召喚はいいけどよ。処分する必要あるのか? 外れ加護とはいえ加護持ちなんだしよ」
寛介がまだ気を失っていると思っている兵士は雑談をしている。内容はどうやら寛介にとっては洒落にならない話であるようだ。
「同じ賢者は1年に1回しか召喚陣を起動できないそうだ。召喚した異世界人が死亡した場合はその限りじゃないらしいけどな」
「なるほど、それで再召喚して強力な加護持ちの勇者を生み出そうってか。賢者様が考えることは怖いねぇ」
兵士はわざとらしく怯えたふりをしてみせる。顔はにやけているが。
「ま、その賢者様のお陰で我らバルスタはもってんだからありがたい話だ。」
「そうだな、今や年老いた王様より賢者様のほうが……」
コツコツと階段を降りてくる音が聞こえてくる。
「ん? こんな時間に誰だ……っておい!」
「王よりも、なんだって?」
現れたのは金髪の爽やかな青年だった。
「こ、これは王子殿! し、失礼しました!」
「な、なんでもありません! お、お許しを!」
青年は笑いながら腰にかけた剣を抜く。
「はは、困ったなぁ、父上への不敬を許すわけがないだろ?」
「ひっ! お助――」
怯える二人を、声を上げる前に青年は斬って捨てる。剣についた血を振り払って鞘に収めた王子は寛介へ声をかけた。
「やぁ、起きているんだろう? 少し、話さないか?」
12/20 ステータスの記述を修正しました(数値等は変化していません)