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16 狩猟

「断る!」

 寛介は意味がわからないと言った顔で拒否した。ノノはすがりついて懇願する。

「お願いします! うちにできることならなんでもします、うちが生きるためにはそうするしかないんです。このままだと魔獣に殺されるか、また捕まって売られて愛玩奴隷になるだけなんです、カンスケ様、うちを助けてください」

 寛介は勢いに飲まれそうになりながらも、反論する。

「なんで俺なんだ、俺がお前にひどいことをしないって保証はないじゃないか」

「あはは」

 ノノはたまらずと言った様子で笑う。

「何で笑うんだ」

「ああ、ごめんなさい。あまりにもカンスケ様がおかしいことを言うから」

「おかしい?」

 ノノは大きな目をパチクリとさせながら、言ってのける。

「だって、カンスケ様はいい人じゃないですか」


 日が落ちきり、月明かりのみが光源の道をこれ以上進めないと判断した寛介は焚き火をし、キャンプをすることにした。そうとは言っても、寛介だけならばスキル[夜目Ⅰ]の効果で夜道でも問題なく進めるはずなのだが。

「カンスケ様、うちは何をすればいいですか? ご飯……は材料無いし、お背中をお流し……はお風呂がないからできないし……。あっ!」

 いい考えが思い浮かんだのか、ノノは機嫌よく叫ぶ。

「カンスケ様、交尾しましょう! うち精一杯ご奉仕しますよ!」

 寛介はノノにチョップする。コツンと軽い音が響き渡った。

「うるさい、そもそもお前を奴隷にしたつもりはないぞ」

「えー、でもうちを連れてってくれるって言ったじゃないですか」

 確かに寛介は根負けして、近くの町までは連れてってやるという約束をした。町にさえついてしまえば、ノノ一人でも大丈夫だろうと。メソに戻るのが一番早いが、流石にそれはできないので次の町までという約束で同行を許可した。

「だから、奴隷じゃないんだから普通にしてろ普通に」

「わかりましたー、でもしたくなったらすぐに言ってくださいね、カンスケ様はご主人様なんですから! まぁカンスケ様ならたとえご主人様じゃなくても大丈夫ですけど」

 顔を赤らめ、モジモジしながら言うノノ。話が通じず、頭が痛くなってきた寛介は相手をするのをやめた。

「もう寝ろ、明日も歩くんだから」

 不機嫌そうな声でそう言いながらも、寛介は嫌な気持ちではなかった。

「美子……すぐ迎えに行ってやるからな」

 ノノの天真爛漫さが、妹の美子と重なり、少し愛おしくすら感じるのであった。


 朝、日差しの刺激で寛介は目を覚ました。

「ん、朝か、ふぁあ……」

 不測の事態に備えて座って木にもたれかかりながら寝たにも関わらず、不思議と寛介の体からはしっかりと疲労が抜けていた。ふと寛介は、太ももに重さを感じる。ノノが寛介の太ももを枕にして寝ていたのである、寛介のズボンはノノの涎で濡れてしまっていた。

 ノノの綺麗な額に向けてデコピンを放つ。痛みで目を覚ましたノノは抗議する。

「痛いっ! うう……、朝から酷いです、カンスケ様……」

「うるさい、まず涎をふけ。まったく、代えがないってのに汚しやがって」

 グーとノノのお腹が鳴る。ノノは恥ずかしそうに顔を赤くする。

「カンスケ様、お腹すきました」

「そんなこと言われてもなぁ……、お?」

 寛介は空を見上げてつぶやく。

「やってみるか」

 ウエストバッグからルーンナイフを取り出し、寛介は空に向けて投げる。三秒ぐらい経った後、ドスンと何かが落ちてきた。

「上手くいったな」

「鳥だ~、美味しそうですねカンスケ様!」

 鳩のような見た目であるが、大きく肉付きが良い。ルーンナイフを回収しながら寛介はノノに尋ねる。

「ノノ、こいつは食えるのか?」

 ノノは薄い胸を張りながら、自信満々に答える。

「食べてみないとわかりません!」

 寛介はため息を付いて、鳥を見る。

「鳥とか捌いたこと無いからどうしたもんかな」

 ノノの耳がピクッと動いた。

「うちにおまかせください!」

「えー」

 寛介はわかりやすく疑った顔であった。全くもって信用をしていない。

「まぁまぁカンスケ様、見ていてください、ナイフお借りできますか? さっきのそれでオッケーです」

 ルーンナイフを受け取ったノノは、手際よく羽をむしっていき、あっという間に解体した。慣れた手つきに寛介が感心していると、

「ほんとは料理とかできれば良いんですけど、調味料がないんでとりあえず素焼きで我慢して下さいねカンスケ様」

 などと言いながら、鳥の直火焼きを仕上げたノノは、涎を垂らしながら毒味と称して鳥肉を口に入れた。

「ん、おいしい! カンスケ様も食べてください」

「ほんとにうまいな、ありがとうノノ、助かったよ」

 礼を言われたノノはとても嬉しそうだ。

「そんな、奴隷として当たり前のことをしたまでです」

「だから、奴隷にしたつもりはないって言ってるだろ」

 肉は二人で食べるには十分な量で、あっという間に平らげた二人は、少しの食休みをとり、出発することにした。

「その前に、ちょっと待っててくださいねカンスケ様」

 ノノはそう言うと、運転席から運転手のものであろうリュックサックを取り、馬車の中の荷物をあさり始めた。

「お、おいノノ、何やってんだ」

「使えそうなものは持っていこうと思いまして、どうせ置いておいても誰かが持っていくだけですし、使わせてもらいましょう」

 うちの慰謝料代わりですなどと笑いながら、使えそうなものをリュックサックに入れ、荷物をまとめたノノはそれを背負った。

「さぁ行きましょうカンスケ様、精一杯お手伝いします、なんでもおっしゃってください」

 ノノはとても明るい声でそういった。寛介はとても複雑な表情で、首肯する。

「そうだな、行こう」

 朝日が照らす道を、二人は歩き始めたのだった。


メリークリスマス!

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