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15 奴隷

 日の落ちそうな道をしばらく走っていた寛介だが、追手が来ないことを確認し、歩くことにした。ソロン方面につながる道はバルスタやメソ、リアンをつなぐような街道のように舗装されていない。この道を馬車で二日かかる距離歩くのは非常に骨が折れそうだ。

「!?」

 しばらく歩いていると、車軸が壊れたのだろう、動かなくなった馬車と、馬と運転手、用心棒の死体、それらを貪る犬の頭を持った人型の生き物を発見した。

 この魔獣はコボルドと呼ばれる下位の魔獣である。比較的小型ではあるが知性を持っており常に複数の群れで活動しているため未熟な冒険者や馬車が襲われる被害が絶えない。

「五体……まとめて相手にするのは得策じゃないか」

 寛介は岩陰に隠れ、バックパックからナイフを取り出した。ナイフには文字らしきもの刻まれている。

「早速使わせてもらうよ、カナエさん」

 取り出したナイフに、寛介が魔力を込めると刻まれた文字や記号が光り始める。

 寛介はナイフをコボルドに向かって投げる。光りが線を描き、見事にコボルド二体の喉を切り裂き、一体の喉に突き刺さった。命中したコボルド三体はその場に崩れ落ち、じたばたと苦しそうに足掻くが、暫くすると息絶えた。

「ちゃんと当たった、さすがカナエさん……」


 ――それはカナエの城を出発する前のことである。

 カナエが寛介に、それぞれに文字が刻まれた三本のナイフを手渡した。

「これは?」

「それはルーンナイフ、魔方陣をルーンに置き換えて道具そのものに刻み込むことで私が製作した魔具だ」

 ルーンはスクロールや魔具が使えない状況でも魔術師が戦えるように考案、開発された魔法的な意味を持った文字のことである。魔力の高度な制御を必要とする魔法の発動はできないが、強化などの単純な付与に関しては十分な働きが期待できる。

「それぞれに必中と不壊のルーンを施している。目をつぶって投げても命中するだろう」

「何から何まで、ありがとうカナエさん」


 ――急に仲間が死んだコボルドは混乱状態に陥った。寛介は残り二本のナイフを更に投擲する。必中のルーンにより、そのナイフが狙いを外すことはなかった。

 寛介はコボルドの死骸へ近づき、ルーンナイフを回収した。

「うっ……」

魔獣は人を喰らう、わかっていたことではあるが、実際にその惨状を目にすると、寛介を吐き気が襲うのだった。

「……行くか」

 寛介がその場から立ち去ろうとすると、馬車の方からガタンと音がする。

「!?」

 寛介は恐る恐る馬車に近づくと、どうやら馬車の中に何かが居るようだ。寛介は閂を外し、扉を開けると中には隣国の名産品と、

「……女の子?」

 猿轡や手枷を付けられた状態で檻に監禁された少女がそこにいた。赤みがかった癖っ毛から飛び出る犬のような耳をピンと立て、寛介を警戒していた。

「大丈夫か?」

 寛介が檻を開けて、馬車の中から女の子を出してやる。体に触れられた少女は拒否するように暴れる。

「ほら、外してやるから、暴れるな」

 少女を縛っていたものをすべて取り外してやる。

 敵意や害意がないとわかったのか少女はすっかりおとなしくなった。

「あ、あの、ありがとうございます」

 先程までピンと立っていた耳もペタンとたたまれている。警戒は解けたようである。

「それにしても、お前――」

 寛介は少女の耳や尻尾を触りながら、

「これは本物か?」

 少女の顔が真っ赤に染まる。抗議の声をあげるが、その声は掠れている。

「んっ……あっ、や、やめてください」

 幼い見た目に似合わない艶めかしい声に、寛介も顔を赤らめて手を引っ込める。

「ご、ごめん」

「い、いえ、大丈夫です」

 気まずい空気が流れるが、少女が口を開く。

「あの、うちはノノって言います、あなたのお名前を教えてくれますか?」

「俺は神矢寛介、ノノはその、人間じゃないのか?」

 寛介は聞きにくそうに尋ねるが、ノノはあっけらかんと答えた。

「はい、うちは亜人種、獣人です」

 亜人種は魔族が現れ初めた頃から確認された魔獣の特徴を持つ人型の種族で、魔獣が人を受精させて誕生したという説や、瘴気により突然変異した者達が繁殖を繰り返し種族として成立したという説など、未だに詳しいことは明らかになっていない。

 亜人種は差別の対象となることから、独自の小さな村を作って生活をしている。村が大きくなり、国に匹敵する程になった例もあるようだ。


「そういえば、ここは何処ですか? バルスタじゃ無い……ですよね」

「ここはメソって町の近くだ、バルスタはここから歩いて二日ぐらいだな」

「そうですか……」

 ノノは喜びと悲しみが混ざったような複雑な表情である。

「どうしたんだ?」

 馬車の運転手や用心棒の死体を見ながら、ノノは話し始める。

「うちの村はソロンの西の山の中にあったんですけど、この人達の仲間がやってきて――」

 若い女以外は全員殺され、生かされた者も奴隷として売られていったらしい。ノノはバルスタの好き者の貴族に売られ、運ばれる途中だったらしい。

「もう、うちには帰る場所もありません」

 寛介が尋ねるとノノは意を決して頭を下げた。

「あの、カンスケ様、うちを奴隷にしてください!」


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