70 独白
「そして何故か技術部の兵士がマリア婆ちゃんの家の周りをうろついていた。詳しく聞いてみると、なぜか婆ちゃんが誘拐の協力者に仕立て上げられていたよ」
フリードは額に青筋を立てながら、必死に怒りを押し殺していた。
「ということは、やっぱり特務部隊の中にも技術部とつながっている人がいた……?」
まず寛介が疑問に思ったのは『あのハインツが命令とはいえ素直に従うか』ということだ。色々な無茶苦茶な人間だったが、訓練で剣を交えて彼の性質はある程度理解できていた。彼は帝国臣民を愛し、守るために軍に属している。
当然、表立って逆らったりはしないだろうが、内密に動いてもおかしくはない。実際、ヨナもハインツならそうすると思っていたからこそ、裏切られたと強く感じて軍を出奔したのだ。
そこで寛介は“しなかった”ではなく“できなかった”のではないかと考えた。そして、その理由を考えれば自ずと特務部隊の中に間者が紛れている可能性が生まれる。
「あの字体は確実に隊長のものだった。隊長が自分で持ってきたのであれば、マリアさんの家に俺たちがいることを技術部が知るはずはない」
つまりは、ハインツにこの手紙を預けれられた何者かが技術部の間者である。正確に言えば、その者が間者である確証を得るためににハインツがこの手紙を運ばせたということだ。
「ハインツさんもヨナくんが気づくと信じていたようだ、訪ねたらすぐに全てがはっきりしたよ。マリア婆ちゃんを巻き込んだのは癪だが、これは特務部隊への貸し一つにするとしよう」
フリードがマリアの件でハインツを訪ねた時点で、限りなく黒に近い灰色だった者は黒であることが確定する。ハインツはフリードとともに尋問し、情報を引き出した。
「そうして、我々はここに来たというわけだ」
フリードが現れた方向から、声が近付いてくる。
「レネさん……」
「悪いな、ヨナ。全ては裏切り者を炙り出すためだ、許してくれ」
「いえ、私も無礼なことを言ってしまいました」
レネは心から申し訳無さそうにヨナに頭を下げる。それに対してヨナも恐縮した様子で頭を下げた。
「それで、ルグナー・ダムハイト。今回の略取誘拐事件、地下施設での何らかの非人道的な実験、何か申し開きはあるか」
ハインツは腰を抜かして座り込んだままのルグナーへ声をかけた。
「申し開き……か。貴様らのような“才能”に恵まれたものに説明したところで無駄だろう」
ルグナーは鼻で笑うと、そのように口走る。
「考えたことも無いだろう、才能のない者がどのような気持ちで日々生きているか」
とりとめなく、ルグナーは口を動かし始める。
「話にならないな、一体何が言いたいんだ」
「わかるはずもない、だから私の息子は自殺したのだ。加護を持たなかっただけであの子の人生は否定された……!」
「あの子はこの国のためを思って仕官したにも関わらず、加護を持っていないからと認められなかった!」