69 武力行使
「なぜ、ここに……」
突然のフリードの登場に、ルグナーが顔を真っ青にしている。
「フリードさん、やっぱり来てくれてたんだね」
「君のおかげでマリア婆ちゃんを守ることができた、ありがとう」
ルグナーに向けていた表情を一変させたフリードが柔和な笑顔で寛介へ礼を言う。
「ここへはどうやって?」
帝国軍の少将とはいえ、所属の違う施設への立ち入りは簡単ではないだろう。
寛介の疑問に、爽やかな笑顔でフリードは答える。
「少し武力行使をね」
――自治協会と帝国軍は定期的に情報交換を行っておりフリードがその役割を担っている。
数時間前、寛介たちが技術部の地下施設へ向かい自治協会を出発したしばらく後のこと、フリードがマーガレットを訪ねていた。
「やはり軍は略取誘拐事件の調査を行うつもりがないのですね」
可愛い顔の眉間にシワを寄せながら、マーガレットは苦い顔でフリードへ尋ねる。
「以前お伝えしたとおり、調査は行っているが進展は無いということです」
「軍人としてそう答えるしか無いということは理解していますが、結局のところ町で調査をしている様子がない以上我々としてはそう理解せざるを得ないということは以前お伝えしましたね?」
マーガレットがそう言うと、フリードは返す言葉もないとばかりに黙り込む。
黙り込んだフリードをマーガレットが鋭い目で見つめている。とうとう耐えきれなくなった彼は白旗を挙げた。
「いじめないでくれよ、メグ」
「まぁなんて言い方でしょう。私がフリード様をいじめるだなんて心外です」
「どこに誰の目があるかもわからない、この立場では下手なことは言えないんだ」
軍人には規範意識が求められる。将と名のつく階級を持つフリードは特にすすんで規範を守らなければ部下に示しがつかない。
納得がいかずとも、組織としての動きであれば従うしかない。
「そうでしたね。フリード様が私達のために動いてくださっていることは理解しています。カンスケさんを紹介して頂いたことすら、捉えようによっては軍に叛いたと取られてもおかしくないのですから」
「カンスケくんは引き受けてくれたということか」
「はい、北西に誘拐犯の拠点があるという情報を得て、今はそちらの調査に向かっています」
「情報?」
フリードが尋ねると、マーガレットは頷く。
「マリアさんの家に手紙が届いたらしくて、これなんですけど」
マーガレットは寛介から預かったとフリードへ手紙を渡す。
(これは暗号文……? 帝国軍で使用しているものとは少し異なっているが……。それよりも、カンスケくんはこれを解読したのか? いや、不可能だ)
フリードがマーガレットへ質問する。
「もしかして、カンスケくんのパーティに新しい人間はいたか?」
「ヨナさんという方が軍を抜けてパーティに参加することになったそうです」
「なるほど……。カンスケくんは他に何か?」
「はい、この手紙を渡して置いてほしいということと、あと、マリアさんをよろしくと仰っていました」
それを聞いたフリードはありがとう、とマーガレットに言うと自治協会を後にするのだった。