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67 白衣の男

 落ち着いた寛介はあることに気が付いた。

「おとなしくなったか?」

 先ほどまで狂ったように襲い掛かって来ていた子どもたちが、今は距離を取っていた。

 未だ燻る煙を警戒しているようで、寛介たちへ敵意を向けながらもすぐに飛び掛かってくる様子はない。

 寛介がはっと何かに思い当たる。

「火をあの子たちの近くに出せるか?」

 寛介が美子に確認すると、彼女は頷いてスキルを発動した。

 子どもたちの近くへ魔力で作られた炎があがる。すると、それを警戒して後ずさっていく。彼らは明らかに炎を恐れていた。

「よし、これなら……! 美子の炎でけん制しつつ、俺たちは退路を確保するぞ」

 寛介は崩れた入り口を指してそう言った。


 あと一息で崩れたがれきの撤去が完了すると誰もが思っていた。だがその目算は儚く崩れ去ってしまう。

「誰!?」

 炎でけん制していた美子が、子どもたちの背後から現れた人影に気が付いて声を上げた。

 その声に気が付いた寛介たちもその方向へ目を向ける。

「なんと、誘拐犯から保護した大事な子どもたちが殺されてしまっているではないか」

 白衣を着た怪しげな初老の男が、演技がかった口ぶりで言った。

「何が保護だ、ふざけやがって」

 寛介が吐き捨てるように言い放つ。すると何が可笑しいのか、男は声を上げて笑い始めた。

「なんと可哀想なことか。彼らはここでただ私たちの研究の手伝いをしていただけだというのに」

「白々しい」

 黙って聞いていたヨナが声を上げる。その声には強い怒りが込められている。

「誘拐された子どもたちが手伝いだと? そんな言い分が通るか、それに――」

 ヨナが縛り上げた警務部の男を指して言葉を続ける。

「この男に全て話させればいいだけの話だ。お前たちはもう終わりだ」

「ふむ、確かに」

 白衣の男は焦る様子もなく、白々しい態度を崩さない。

「我々が子どもを誘拐した事実はない。ないが、その男が証言してしまえば、それは事実になってしまうかもしれない、やれやれ困ったことだ。|どうすればいいだろうか《・・・・・・・・・・》」

 白衣の男が目を細め、縛られている男を見据える。

 すると縛られた男は身を竦め、震え始めた。

「私にはわからないから、誰かに教えてもらおうか。誰に聞けばいい(・・・・・・・)だろうねぇ」

 男の顔が、一瞬醜く歪んだのを寛介は見逃さなかった。

(一体何を企んでいるんだ……?)

 意図を捉えることができず考えていると、突然男が奇声を上げ始める。

「あああっ!!」

「っ!?」

 涙目になりながら、ギリリと鈍い音が響くほど強く歯を噛み締める。

 そして、何かが砕けるような音が聞こえたかと思うと、突然男は苦しみ始める。

「貴様、一体何を!」

 ガレスが怒鳴り声をあげるが、白衣の男は素知らぬふりをしている。

 徐々に男の顔が青ざめていき、呼吸も弱くなっていった。

 かろうじてまだ息はある。ただし、助からないであろうことは誰の目から見ても明白だった。

「――シャ、すま……ない……」

 それは聞き取れないほどに微かな声だった。男は誰かへ謝罪を述べると、最期は眠るように息を引き取った。


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