66 不惑
「……ごめんなさい」
美子が息絶えた子どもたちへ一言謝る。
しかし、初めて人の命を奪ったというのに美子が取り乱す様子はない。
美子は寛介へ近づき、まだ放心している彼を抱きしめながら声をかける。
「大丈夫? 寛にぃ」
「美子――、ッ!?」
意識を取り戻した寛介は、凄惨な光景に絶句する。
「お前――」
「うん、殺した。あーでも、思った以上にショックを受けてないな。どうしちゃったんだろう、壊れちゃってるのかな私」
はは、と苦笑いする美子に掛ける言葉を持ち合わせていない寛介は彼女を抱きしめ返すことしかできない。
兄妹の様子を見ていたガレスが、美子へ向かって声をかける。
「守りたいという気持ちが、殺したくないという気持ちが上回っていたというだけだろう。我はそれを壊れているとは思わない」
さらにヨナが寛介へ言葉をかける。
「その子どもを殺した、それは事実だ。しかし、俺達は生き残る必要がある。残りの子どもたちを救うために、そしてこれ以上被害者を出さないためにもな」
「だけど――」
鈍い音が響いた。
ヨナの拳が寛介の頬を捉えた音だった。
「いい加減にしろ、お前はさっきの行動が間違っていたと本気で思っているのか!?」
ヨナは憤慨して寛介を怒鳴りつける。
「え?」
ヨナの視線が寛介の背後に向けられている。視線を追って振り返ると、ノノが自分を心配そうに見ていることに気がつく。
「ノノ……」
「うちが弱いせいでごめんなさい」
「カンスケ、本当に、ノノさんのせいなのか?」
寛介はハッとなり、ようやくヨナの伝えたいことに気がつく。
「いや、俺の覚悟が足りなかっただけだ」
「カンスケ様……」
「不安にさせてごめんな、ノノ」
寛介はノノの頭へ手を置くと、微笑みかける。
「美子も、ありがとう。おかげで助かったよ」
最愛の妹にもそのように声をかけ、覚悟を決めた目で寛介は口を開く。
「もう、迷わないから」