65 初めての
麻痺花はその名の通り花粉に麻痺成分を含んだ花で、吸い込むと身体の自由が利かなくなってしまう。
ノノの忠告を聞き、匂いに気が付いた寛介たちも咄嗟に服で口を覆い隠す。
「厄介だけど、それなら子どもたちも大人しくなるんじゃないか?」
そのせいで動きは制限されてしまうが、逆に子どもたちも花粉を吸わないように、あるいは吸ってしまって大人しくなるはずだと寛介は考えた。
子どもたちは口をふさぐ様子もなく、寛介たちへ攻撃を仕掛け続けてくる。であれば彼らは花粉を吸い身体の自由を失ってしまうはずである。
「どうなっているんだ……」
しかしそのような淡い期待はすぐに否定されてしまった。子どもたちの動きはいつまでたっても鈍くならない。
「耐性を持っているのか?」
目の前の子どもたち全員がそれを持っているのは不自然であるが、逆にそうでなければ状況を説明できない。
どうあれ、危機的な状況であることは間違いない。子どもたちの戦闘力は口を塞ぎながら相手ができるほど低いものではない。命を奪わず、最小限の攻撃で動けなくすることはもはや不可能に近かった。
子どもたちを救うのが目的とはいえ、ここで全滅してしまっては元も子もない。
(このままじゃ……)
窮地を脱するには、もう一度前提条件を変える必要がある。そのように理解しながらも、寛介はふんぎりをつけることができない。そしてそのような迷いが寛介の反応を鈍らせる。
少年が突進してくるのを衝突するすんでのところで気が付いた寛介であるが、その背後にはノノがいる。避けるわけにはいかなかった。
咄嗟に寛介は少年を投げる。勢いを利用される形で投げられた少年は、頭から地面に叩きつけられてしまう。
「しまった!」
少年の首はあらぬ方向に折れ曲がり、身体はピクリとも動かない。
寛介の目の前が真っ白になり、思考が止まる。
「寛にぃ!」
他の子どもたちが動かない少年を見ながら呆然と立ち尽くす動きの止まった寛介を標的にして襲い掛かろうとしていた。
美子は兄を守るべく、スキルを発動する。
「炎陣!」
寛介を中心に、周囲を守るように炎の壁が現れる。
襲い掛かろうとしていた何人かの子どもは炎に焼かれ、動かなくなった。