64 獰猛
少年たちは、先ほどまでの感情が無い様子とは打って変わり強い殺意を向けてきている。
「ガウッ!」
先頭の少年が、獣のような唸り声を上げながらノノへ襲い掛かる。
「っ!」
ノノは驚きながらも、横っ飛びでなんとか避ける。
「大丈夫か!?」
「はい、なんとか……。ですがカンスケ様、さっきよりも強くなっている気がします」
「くそっ、どうなってるんだ」
先程と同様に意識を奪うために攻撃を当てていく。しかし、意識を奪うどころか、怯ませることもできない。しかも攻撃を加えるたびに、子どもたちの獰猛さが増していく。次第にノノとララでは荷が重くなっていった。
「お嬢様!」
ガレスがララをかばうように襲い掛かる少女との間に立ちふさがる。直後にガレスの背中は少女の爪で大きく切り裂かれた。
「っ!」
驚いて声を上げたララに、困惑を隠せないのはガレス本人であった。
魔族であるガレスは一般的な人族よりも遥かに硬い表皮を持っている。さらに魔力で強化された身体を目の前の少女が素手で傷つけられるなどと想像すらしていなかった。
「大丈夫ですか?」
心配そうに声をかけてくるララへ首肯しながらも、この凶爪がララを捉えていたら一体どうなってしまっていたのか、背中に寒気を感じていた。
「カンスケ、どうするんだ」
攻撃をいなしながら、ヨナが寛介へ声をかける。
「くそっ」
狂ったように襲い掛かってくる子どもたちは、生半可な方法では止まることは無いだろう。それこそ足をへし折ろうが、止まることなく這ってでも向かってくることは容易に想像できる。
状況は寛介たちの対応を待たずにどんどんと進んでいく。初めに異常に気が付いたのはやはりノノであった。
「この匂いは……、まさかっ!」
ノノの鼻が甘い匂いを捉えると、すぐに口をふさぎ注意を喚起する。
「皆さん、気を付けてください。麻痺花の匂いです!」