63 短慮
ガレスのまさに一騎当千の奮戦に、立ちふさがっていた兵士たちは全員戦意を失って小屋の中へ逃げ込んでいった。調子よく話していた男は押し黙ってしまう。
「もう終わりか。思っていたほどでもなかったぞ」
ガレスは構えを解くと、心から残念そうにそう口を開いた。
「無茶しないでくれよ」
ガレスの単独行動に、寛介は軽く苦言を呈する。
「気を付けよう。だがあの小屋の中に何かがあるのはこれで決まりだ」
「内部を調査する。みんな、十分に気を付けてくれ」
地の利は時に圧倒的な戦力差を逆転させることもある。内部がどうなっているか不明なこの状況であれば、いくら警戒してもしすぎるということはない。
寛介たちは警戒を強めながら、小屋の中へ入っていく。
小屋の中は彼らが予想していたよりも、普通の住居のような構造をしていた。しかし、家具などは何もなく人が住んでいる形跡はない。
兵士が何も気に留めることなく土足で逃げ込んだのだろう、くっきりと足跡が残されていた。
寛介たちは奥へ続くそれを辿ると、苦労することなく地下に繋がる階段を見つけることができた。
「行こう」
階段を降りていくと、およそ研究施設と呼ぶにはワイルドすぎる、岩肌がむき出しの壁が目立つ空間が広がっていた。壁に照明が設置されてはいるが薄暗い。
「カンスケ様、向こうに誰かがいます」
ノノは光が届いていない死角を指差してそう言った。
一行は隠れた襲撃者を警戒するが、いつまでたっても襲い掛かってくる気配はない。
寛介は警戒しながら恐る恐る近づいて美子へ火の魔法で死角を照らすよう指示をする。
「これは……」
「ひっ!」
ノノやララ、美子が目の前に広がった異様な光景に驚き声を上げる。
照らされた死角は牢屋のようになっており、そこに二十人を優に超える少年少女が膝を抱えて座っていたのだ。
急に光を当てられたにも関わらず、少年たちは俯いたままこちらを確認しようともしない。
「さっき俺たちを囲んだ子どもたちに間違いない」
ヨナが冷静に少年たちの顔を確認してそう言った。その声はどこか悲しい。
「軍が、俺はどうすれば――」
兵士が逃げ込んだ小屋から繋がっていた地下空間で子どもが牢に閉じ込められていたのだ。これは今回の略取誘拐事件の黒幕は自分が属していた帝国軍であったということに他ならない。
「ともかく、難しいことは後だ。この子たちをすぐにでも連れて帰ろう」
「待て、この童らの様子尋常ではない。このまま連れ帰ったところで、問題が解決するとは思えん、それに――」
「だからって、このままこんなところに放置するわけにはいかないだろ」
寛介はガレスの忠告を聞こうとせずに鉄格子に手をかける。
手をかけるとそこまで力をかけていないにも関わらず簡単に鉄格子が取れ、何かスイッチが入ったような音が鳴る。
すると、寛介たちが来た方向から爆発音が聞こえてくる。
「なんだ!?」
驚いて確認に戻ると、来た道が崩れて戻ることができなくなっていた。
かと思うと、大量の足音が寛介たちの方向へ近づいてくる。
「っ!」
先ほどまで膝を抱えて蹲っていた子どもたちが、目を血走らせて寛介たちを睨みつけていた。