62 蹂躙
縛り上げた男は何も話そうとしないが、ともかく寛介たちは今得ている情報で状況を整理する。
まずはあの小屋に近付いたことで少年たちは自分たちを襲撃してきたこと。また不確定ではあるが、あまりにもタイミングよく魔獣が現れたことから、彼らが魔獣の群れを使役することができる可能性がある。
そして目的は不明であるが、帝国軍警務部と技術部は協力関係にあるということ。
どうあれ手紙に書かれていたような地下にあるとされる研究所に、攫われた子どもがいるという直接的な証拠は手に入ってはいない。寛介たちを取り囲んだ少年たちが攫われた子どもたちであるという可能性は十分にあるが、まさか保護者を連れて顔を確認させるような危険な方法は取れるはずもない。またもし仮に確認できたとしても技術部との関係を示す証拠とはならない。
「確証を得るためにも、あの小屋の中を調べる必要がありそうだ」
結局はナルに訪ねさせた小屋の中を検めることが必要であるという結論に至った一行は、もう一度小屋を調べるために逃げてきた道を戻ることにした。
「なんだこれは……」
小屋が見える距離まで戻った寛介たちの目に入ったのは、大量の兵士の姿だった。
その中でも十二人の重武装した兵士が目立っている。
「はは、貴様らはこれで終わりだ!」
ガレスに抱えられた男は、それを見て急に生気を取り戻す。
「あれは我ら警務部の中でも、特殊な戦闘訓練を積んだ十二人だ。貴様らごときが敵う相手ではない!」
説明も求めてないのにペラペラとよく回る口で男は解説を行った。
それを聞いていたガレスは男を投げ捨てるように地面へ放り、大剣を抜いた。
「なるほど、貴様が妙に落ち着いていたのはこれが原因であったか」
確かに敵に拿捕されているにも関わらず、男は焦る様子もなかった。
「であれば、我が頼みの綱を断ち切ってやろう」
「馬鹿め! 貴様一人で一体何が――」
男の言葉を最後まで聞くことなく、さらに言えば、寛介たちが止める間もなくガレスは単騎で集団へ斬り込む。
「馬鹿なやつめ! 一人で一体何ができる」
男がガレスを嘲るように笑っていた。だが、それも束の間、次第に男の笑顔は引き攣っていく。
「な、なっ!」
ガレスが振るう大剣が兵士を吹き飛ばしていく。重武装の兵士もそうでない兵士もまとめて吹き飛ばすその様子は、男の希望を砕くのに充分だった。