60 包囲②
大量の魔獣にもが後れを取ることはなく、各々が自分の強みを活かして魔獣を駆逐していく。
「とはいえカンスケ、このままだとキリがないぞ」
「そうだな」
寛介には一つの懸念があった。
(妙に甘かった包囲、そして見計らったかのようにこんなところへ現れた大量の魔獣。偶然か?)
そして残念ながら、その懸念は的中してしまうことになる。
魔獣たちの波は治まる気配もない。
さらに何かに気が付いたノノが警戒の声を上げる。
「皆さん、気を付けてください! さっきの子どもたちの気配です!」
ノノの感知のおかげで、不意打ちを受けることは避けることができた。
彼らを取り囲んだ少年たちの数は、先ほどの倍以上だった。加えて、倒しても倒しても減ることのない大量の魔獣。状況は最悪と言っても過言ではない。
「これは……、もはや子どもたちの身を案じている場合ではなさそうだが」
ガレスの言葉に寛介が首を振る。
「恐らくこの子たちが攫われた被害者だ。それを傷つけるわけにはいかない」
「うちもそう思いますが、この数を無傷でとなると……」
ノノの言う通り、それは現実的ではない。その場の誰もが寛介の気持ちは理解した上でそう思っていた。
チームリーダーとして、ここで取るべき選択は明らかである。消耗したメンバーが傷つくことを避けるのが第一優先となるのだから、子どもたちを傷つけてでも無力化することは致し方ないことだ。
異世界に来てからというもの、間違いなく人間として大きく成長した寛介ではあったが、そのように割り切った行動を迷いなく取れるほどではない。
その場で鈍い音が響いた。
「なっ!」
ガレスが迷いなく少年の腹部へ拳で打ちこんだ音だった。鳩尾を打たれた少年は呼吸困難に陥りその場に倒れ伏す。
「なっ!」
寛介は目を丸くしてガレスを睨みつける。驚いた寛介に遠慮せずガレスは口を開く。
「命を奪わないように手加減はした。それ以上の結果を求めるのは、この戦力では不可能だ。手は我が汚そう、貴殿らは魔獣の方を頼む」
「俺もガレスさんの意見に賛成だ。現状、俺たちができるのは彼らを最小限の攻撃で無力化することだろう」
ヨナもその尻馬に乗る。正論にぐうの音も出ない寛介は、唇を噛んだ。
「兄さん……」
一連の様子を見ていた美子が心配そうに寛介を見上げている。それに気が付いた寛介が心配する必要はないと頭に手を乗せる。
ふうと息をつくと、落ち着いた様子で口を開く。
「三人の言う通り、俺が甘かった。彼らを可能な限り傷つけずに制圧するぞ!」
決断してからの展開は早かった。
数の差があるとはいえ、一人当たりの戦力は比ぶべくもない。無傷でという前提条件がなくなった以上、もはや少年たちは相手にならない。
残った唯一の問題であった大量の魔獣たちも、無限に沸いて出てきそうな雰囲気とは打って変わり、あと数匹しか残っていない。
「これで……」
「最後です!」
寛介が最後の少年の意識を刈り取ると同時に、ノノが最後の魔獣の息の根を止める。
ようやく終わったと、その場にいた全員が安心した瞬間、警笛が鳴り響く。警笛の聞こえた方から、大勢の帝国軍の兵士が現れた。
そして先頭に立った指揮官と思われる兵士が大声で叫ぶ。
「児童誘拐、暴行の現行犯だ、貴様らを拘束する!」