59 包囲
警戒を厳にしながら、寛介とガレス、ヨナで少年を取り囲む。圧倒的に不利な状況にもかかわらず、少年は全く動じる様子がない。
「人形みたいだな」
寛介の一言に、ヨナたちも同意する。きっと今と同じように無感情に、そして残虐に油断した冒険者たちを手に持った武器で殴り殺したのだろう。
「目で追えない程じゃない、気を付けていればこの人数差なら大丈夫だろう」
「とはいえ、傷つけずに制圧するのは難しそうだ」
襲い掛かってくるとはいえ、目の前の少年が何らかの手段で操られている可能性も否定できない。
先ほどから三人で取り囲んでいるにもかかわらず攻めあぐねているのはそれが理由である。
「しかし、このまま時間だけが過ぎるのも考えものではないか? この少年が戻ってこないことを不審に思われれば、増援が来ないとも――、遅かったようだ」
ガレスが無念そうにつぶやく。気が付くと少年を取り囲んでいたはずの寛介たちが逆に取り囲まれていた。
「いつの間に……」
取り囲んでいたのは、目の前の少年と同じ年代の少年少女達である。加えて、全員が同じように無表情・無感情であった。
例え相手が少年少女であるとはいえ、先ほどの戦闘力を鑑みると、包囲された上、彼を無傷で制圧しようと考えていた寛介たちは不利と言わざるを得ない。
「一旦、撤退するぞ!」
寛介が大声で叫んだ。包囲の甘い箇所を、走り抜けるようにして寛介たちは撤退する。
激しい妨害を警戒していたが、そのような妨害もなければ、少年たちが撤退する寛介たちを追ってくる気配はなかった。
包囲から逃れることができた寛介たちだったが、状況は芳しくはない。
少年たちから包囲された次は、魔獣たちに包囲されていた。
「こんな量の魔獣、どこに!」
ヨナが吐き捨てるようにそう言った。
先程までとは異なり対処に関しては問題ない。とはいえその量は問題であった。
「みんな大丈夫か!?」
「うちは大丈夫です、美子さんは――、心配なかったみたいですね」
ノノが美子に視線を向けて、苦笑いを浮かべる。
美子に襲い掛かる魔獣は目にも止まらない速さで次々に倒されていく。
「身体が軽い! 次は魔法を……、えっと、[炎弾?]」
人差し指を魔獣に向けながら、美子が実験するようにスキル名をつぶやく。その指から放たれた炎の弾は、直線状にいた魔獣を貫いて命を奪った。
「さすがは勇者といったところか、それにあの動き、訓練も相当積んでいる」
ガレスが感嘆の声を上げる。妹を褒められて悪い気はしない寛介であったが、明らかに自分よりも高い戦闘能力に何とも言えない気持ちになっていた。