58 奇襲
ナルの前に現れたその少年はどこか仄暗い目をしていた。驚いて一瞬怯んでしまったが、ナルはなんとか少年へ身の上を説明する。
「こんにちは、少し道を聞きたいのですが、お父さんかお母さんはいらっしゃいますか?」
少年が感情のない声でナルの質問に答える。
「お父さんたちは今手が離せないので、ごめんなさい」
「少しでいいんです、道を聞きたいだけなので。もし親御さんが無理なら、あなたでも――」
「お父さんたちは今手が離せないので、ごめんなさい」
ナルの言葉に対して、少年は壊れたラジオのように同じ台詞を繰り返す。
いくら食い下がっても、どのような言葉をかけても少年から返される言葉は変わらなかった。
「わかりました」
いつまでたっても埒が明かないため、撤退せざるを得なかった。
「ダメだった~」
そう言いながら、申し訳なさそうなナルが戻ってくる。
「遠くから見ててもわかるぐらい、何かおかしくなかったか?」
腕を組んだ寛介が、感じた印象を述べる。その意見を実際に応対したナルが肯定する。
「うん、まるで人と話している感じじゃなかったよ」
「何かあると見ていいだろうな」
ガレスがそうまとめると、その場にいた全員が頷く。
何かがあるとはいえ、突入するには情報が足りていない。どうしたものかと考えている一行であったが、異変に気が付いたのはノノである。
「誰かが近づいてきます!」
「っ?!」
ノノが差す方へ全員が身体を向けて、臨戦態勢に入る。
「……」
ゆっくりと歩いて現れたのは、先ほどナルと話していた少年であった。
相変わらず、その表情からは生気を感じられない。
「……」
ところが手に持った凶器から、敵意だけははっきりと感じられた。
瞬間、ノノの視界から少年の姿が消えた。
少年の持つ凶器はノノへ振り下ろされる。完全に反応が遅れたノノには防御すらできない。
大きな音が響く。しかしそれはノノの頭蓋を砕く鈍い音ではなく、金属がぶつかり合う高い音だった。
動くことができなかったノノの代わりに、間一髪のところで寛介が剣でその攻撃を受け止めていた。
「こいつ!」
寛介が反撃として剣を振るが、少年に機敏な動きで回避される。
「油断するなよ、ノノ」
「は、はい、ありがとうございます、助かりました」
「きっと殺された冒険者も今みたいに不意打ちをされたんだろう、気を付けろ皆!」
寛介がそう言い、全員に注意を促した。