54 影
マーガレットから生き残った冒険者が今日の朝に自治協会へ顔を出す予定であることを聞いていた寛介は直接情報を得ようと自治協会へやってきた。
まだ顔を出していないようなので、すれ違いにならないようその場で待機する。
「んー、遅いな」
ところが、昼を回っても目当ての人物が現れることはない。
寛介が妙な胸騒ぎを感じていると、協会の扉が激しい音と共に開かれる。
「大変だーっ!」
息を切らせながら現れた冒険者によると、昨日の生き残りが家で死んでいたということだった。
「まさか、誰かに殺されたのか!?」
「いや、それが軍のやつらによると自殺らしいんだ。首を吊って死んでたんだってよ。自分だけ生き残った自責の念が動機じゃないかって話だ」
あまりの痛ましい話にその場が静まり返る。
「それはおかしいだろ」
そう口を開いたのはヨナだった。
「っ! なんだお前」
話を吹聴していた男は、見るからに焦った様子を見せる。
「早すぎる、軍がそう簡単に情報を漏らすわけがない」
皮肉を交えながら、ヨナがそう言い切った。
「お前みたいなガキが何でそんなこと言いきれるんだ」
「俺はヨナ・ベック元准尉だ。あんたより、少しは軍に詳しいと思うぞ」
ヨナの名前を聞くやいなや、辺りがざわつき始める。
「ヨナ・ベックって、十五で軍に入ってすぐ特務部隊に配属された神童!?」
「どうしてそんな奴が、自治協会に……」
男の顔が次第に青くなっていく。
「どういうことか、少し聞かせてもらおうか」
寛介とヨナに詰め寄られた男は、一転その場から逃走を図る。だがそこは腕に自信ありと冒険者たちが集まった自治協会だ。逃げ切れるはずもなく、男はすぐに捕まってしまった。
少し手荒に捕らえられた男の顔は元の一・五倍は膨れ上がっている。後ろ手に縛られ、跪かされた男は観念して話し始めた。
「警務部の奴らに、情報を撒いてこいって命令されたんだ……」