49 光明
「今日はもう一人会わせたい奴がいる」
十分に再会を喜んだ寛介たちへ、カナエがそう話す。
「もう一人?」
「ああ、だが寛介。大人しくしていろよ」
「え?」
いきなりの指示に戸惑いを隠せない寛介であるが、とりあえずは首を縦に振って了解の意を示す。
するとカナエはミノタウロスへ合図を送った。
主人からの命令を受けたミノタウロスは、礼をして部屋を出ていった。
しばらく待っていると部屋の扉が開き、ミノタウロスが戻ってくる。それに続いて部屋へ入ってきた者を見た寛介は、思わず身構えた。
「お前はっ!」
その闖入者は自分を打ち負かした仇敵であるはずの寛介を一顧だにせず、震える声を発する。
「――ッ、お嬢様……」
「……ボーマン?」
その声に反応したのは、キアラ・ラ・ナーガシュ。ナーガシュ家唯一の生き残り、すなわちララであった。
ボーマンはその場に跪いて、大きな手で顔を覆った。
「なんということだ! 我は……、我はどうすれば……」
身構えていた寛介もその様子を見て緊張を解き、疑問をぶつける。
「これは一体……」
寛介のその言葉に対して、少し静かにしていろ、と伝えるかのようにカナエは首を振った。
「あなたは何も悪くありません」
悲しみにくれるボーマンへ、ララは優しく声をかけた。
「全ては私たち家族のためにしてくれたことじゃありませんか、責任を感じる必要はないのですよ。それよりも、私はまたあなたと会えたことを嬉しく思います」
柔らかい笑顔を浮かべながら、ララはボーマンの肩に触れる。しばらくの間、その場ではすすり泣く声だけが聞こえていた。
「私の言うことは信じてもらえたか?」
しばらく黙って様子を見ていたカナエは、ボーマンに向けて言葉を放った。
「ああ、疑う余地はない。愚かしさ極まる我でも、お嬢様を見間違えはしない」
自嘲気味にそう口にすると、寛介へ向き直ったボーマンが頭を下げた。
「貴殿にはなんと詫びればよいのか」
殺し合った相手に頭を下げられれ、うまく感情を処理できず寛介は動揺を隠せない。
「帝国で戦った魔族というのは、彼のことだったのですね」
ララが二人の会話へ割って入った。
「彼の責任はナーガシュ家のものです。カンスケさん、難しいかもしれませんが、どうかお許しください」
そう言ってボーマンをかばって頭を下げるララを見ながら、寛介は考えていた。
(もし美子が人質に取られたら、俺ならどうする?)
最愛の妹の命を守るための方法が限られるならば寛介も迷うことはないだろう。そう思った寛介はすっきりとした表情になる。
「あんたは帝国の人をたくさん殺した」
「っ!」
「ああ、そうだ。我は多くの命を奪った」
「きっと俺も逆の立場なら同じことをすると思う。それにあんたと戦ったおかげで手に入れた力で俺は大事な人を救うことができた。俺はあんたを責めることはできない」
「……」
ボーマンは言葉を失い、ララが口を押さえながら泣き笑う。
「大事な人を守りたい。その点で人と魔族は何も変わらない。俺たちは共にいることができる」
寛介は確信を持って力強くそう言った。




