48 ブラコン
――美子が目覚めてから数日が経過した。
次第にカナエと美子の距離も縮んでいき、一緒にお茶を飲むほどになっていた。
その際に美子が話す、寛介に関する話は特にカナエの興味を引き、様々な黒歴史が本人のいない間につまびらかにされていた。
「私が不良の先輩に言い寄られてるときに、兄が守ってくれようとしたんですよ」
「ほう、男気だな」
「でも相手は高校生で、年上なんですよ? 案の定、こてんぱんにやられちゃって。結局相手も冷めたとか言ってその時は助かったんですけど。そのあと、『もっと強くならないと』とか言って体育の先生が通ってる格闘技の道場に通いだしたんですよ、受験生なのに。」
「いい話じゃないか、何が不満なんだ?」
カナエがそう尋ねると、唇を尖らせながら美子が答える。
「それが、初めて数カ月で大人も参加する大会で準優勝したんです。そこまでは良いんですけど、その経緯が地元で有名になっちゃって……。」
(体の動かし方が上手いと思っていたが、そういうことか)
そのようなことを考えていると、悲愴な表情の美子が話を続ける。
「私の周りに男子たちが近寄らなくなったんです、良い感じだった子もいたのに」
何とも言えない空気に、カナエがフォローに入ろうとすると、それを待たずに予想外の話が続いた。
「結局は兄以上の男っていないって思い知らされたんですよね」
「――そうか」
かける言葉を見失ったカナエは、お茶を口に含むことで誤魔化すことにした。気分が上がってきたのか、美子はさらに別の話を始める。
(あの兄にして、この妹か……)
適度に相槌を打ちながら、カナエは心の中でそう呟いた。
「まだあって――」
「ああ、美子。続きは今度になりそうだ」
小一時間話したにもかかわらず、さらに話を続けようとする美子をカナエは何かに気が付いた様子で制した。
「お前の会いたかった男が来たようだぞ」
「え?」
カナエの言葉を聞き、扉へ視線を向ける。扉を開いて現れた者の顔を見て、美子がその場で立ち上がった。
「寛にぃ!」
「……っ」
名前を呼ぶと、一目散に駆け寄り美子は寛介に抱き着いた。
寛介の方はあまりの衝撃に、様々な感情が沸き上がり言葉を失っている。
「寛介、黙ってないで最愛の妹に何か言葉をかけないといけないんじゃないか」
カナエが優しい表情で微笑みながら煽るような言葉を発すると、ようやく寛介が口を開いた。
「なんか……、頭ん中がぐちゃぐちゃでなんて言えば良いのか……。でも、本当に良かった、美子が無事目覚めて」
やっとのことでそう言葉を発すると、寛介も美子を抱きしめ返した。
その兄妹の感動の再開に、寛介と共にカナエの屋敷へ現れたノノやララは思わず目に涙を浮かべていた。