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11 加速

「お前が攻撃してくる間、私は避けるだけにしてやる、まずは一発あててみろ」

修行三日目、そのような宣言で、カナエとの修行(殺し合い)が始まった。

「遠慮はいらん、もっと死ぬ気でかかってこい、そうだ目を閉じていてやろう」

 寛介が果敢に攻めるものの、攻撃はカナエにかすりもせず完全に遊ばれている。目を閉じながらでも、完全に見切っているのであろう、寛介の攻撃がヒットする寸前に器用に回避してみせる。

 疲労で寛介が攻撃の手を休めると、待ってましたとばかりにカナエが攻撃を仕掛けてくる。魔力操作で身体強化を行いながらどうにか耐えようとする寛介であったが、全くと言っていいほど意味を成していなかった。

 瀕死になった寛介にカナエがヒールをかけると寛介の体に激痛が走る。もはや寛介も慣れたもので、悲鳴を上げることもなかった。

「くそっ、強すぎる」

 本気で打ち込んでいるにも関わらず、カナエはときにあくびを噛み殺しながら退屈そうに攻撃をいなす。あまりの実力差に寛介の心に絶望が広がる。

 カナエがそう吐き捨てると、舞うような打撃をもって寛介に襲い掛かった。全身を痛めつけられた寛介はとうとう倒れこんでしまった。

 その後も、瀕死に追い込まれてはヒールをかけられる。何度も、何度も繰り返される攻撃の痛みやヒールの痛みは、寛介の精神を追い込んでいく。

 痛みと恐怖で麻痺した頭ではまともな思考ができなくなっていく。どうして自分がこんな目にあっているのか、逃げてしまいたい。

 そのような寛介の様子を見て、カナエが無遠慮に吐き捨てる。

「ここで諦めるか? それもいい、お前一人なら中の下ぐらいの冒険者として十分生きていけるだろう」

 妹とは二度と会えないだろうがな、カナエのその言葉を聞いた寛介の脳裏に妹の顔が浮かぶ。

『寛にぃ、助けて』

 そう言って見知らぬ土地で今も泣いているかもしれない。そう思うと、虚ろだった寛介の目には光がともり、全身に気力が漲る。

(俺は絶対に美子に会いに行く!)

 その意志は寛介の思考を加速させる。

「正面からの正攻法じゃあ勝てない……、なら」

 寛介はおもむろに上着を脱いで自然体で構える。呼吸を整え、魔力を全身に巡らせた。

「ほう?」

 カナエは面白そうに笑った。そして何をするのか見せてみろとばかりに寛介の顔を突く。繰り出されたカナエの右拳が寛介の顎を捉える寸前、寛介は体を返してそれを避けた。先ほどまでは目で追うこともできなかった攻撃を確かに避けたのである。続く二撃、三撃も避けられたカナエは嬉しそうに口を開いた。

「ふむ、まぐれじゃなさそうだ」

「避けるので、やっとだけど、うまくいってよかった」

 寛介は肩で息をしながらそう言うと、その場に座り込んでしまった。

「それが魔力欠乏だ、そうなるとしばらくは動くのがやっとになる。その状態で無理に魔力を使用し続ければ死ぬ。気をつけろよ」

 寛介が行ったのは魔力操作の応用だった。魔力は物体に帯びさせることで能力や特性を強化できる。さらに工夫すればカナエが指でミノタウロスの腕を切った時のように、任意の能力を強化することができる。

 寛介は体中に魔力をめぐらせることで肌の感覚を鋭敏にした。それによりカナエの拳によって発生した空気の流れを感じ取り、攻撃を避けることができたのだった。しかしながら、慣れていない寛介は魔力を過剰に巡らせ続けたため、魔力欠乏に陥ったのであった。

「さぁ、感覚を忘れないうちに続けよう。これを飲め」

 寛介に手渡されたのは試験管に入った紫色の液体だった。毒々しい色に、気が進まない寛介ではあったが拒否しても無駄だと、それを飲み干した。

「おぉ!?」

 飲んですぐに効果を実感する。先ほどまでの倦怠感が消えたのだ。

「それはマナポーション、魔力を回復させるポーションだ」

 カナエ曰く、マナポーションによる魔力回復にはヒールのようなデメリットはない。短時間で多量に使用すると効き目が薄くなっていくそうだ。

「ポーションは大量にある。遠慮なく使え」

 一時間後、十本目のポーションを飲んだときに効果が出なくなりその日の修行は終了となった。


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