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43 衝突

 ――カナエとマクスウェルの会談が襲撃された事件の少し前。

 魔女の城ではカナエが賢者と冥界軍の陰謀を聞き出すために、帝国から預かった魔騎士ボーマンへ聞き取りを行っていた。ただし、現代日本の警察などで行われるような理性的な聞き取りではないことをボーマンの体に残った痕が証明していた。


 聞き取りを始めてから数日後の朝、ボーマンを拘束している一室にカナエが現れた。

「いつまで続けるつもりだ、何をされようと我は何も話すことはないぞ」

「ああ、時間も限られてる、今日で終わりにするよ」

 意味ありげにそう言ったカナエの手には古いスクロールが握られている。

「こんなものを使いたくはないが、手段は選んでいられない」

 カナエが魔力をスクロールに込めると、そこから発生したどす黒い何かがボーマンを包み込み始めた。

「昔、手に入れた[隷属]のスクロールだ」

「なっ!」

 ボーマンが初めて焦りを見せる。

 このスクロールはカナエが学習院に在学していた頃、事件に巻き込まれ迷宮化した瘴気溜まりの探索を行った際に手に入れたものだ。

 迷宮で稀に見つかるスクロールは原初のスクロールと呼ばれ、非常に強力かつ凶悪な効果を持っているものが多い。

「お前の意志などもはや関係ない、全て話してもらうぞ」

「や、やめろ!」

 強く抵抗しようとするボーマンだが完全に拘束されているので意味がない。しかし突然、彼を包み込んでいた何かがバチっという音とともに弾けて消える。効果は発動していないようだ。

「何だ……?」

 カナエは目を細める。拘束されたボーマンが何かをしたわけではなさそうだ。それは彼自身が困惑していることからもそれは明らかであった。

「これは、“衝突”か?」

 焦りながらも、考えを止めず、カナエは一つの可能性を口にする。

 “衝突”は同一対象へ複数の魔法が発動したときに起こる現象である。

 [ヒール]を複数人で発動した際、効果は重複せず魔力の低い者が発動した[ヒール]が上書きされ消える現象がわかり易い例としてよく挙げられる。発生する原因はよくわかっておらず、同一の魔法なら必ずしも発生するわけではなく、異なる魔法でも系統が似ていると起こることもある。

 つまり、ボーマンは原初のスクロールに記述された[隷属]の系統に似ていて、更に強力な魔力で発動した魔法の効果下にある可能性がある。加えてボーマンの焦り方から、カナエは確信を持った。

「人質でも取られたか」

 ボーマンのこめかみ辺りがピクリと動いた。

「そして、裏切りを防ぐためなどと理由をつけられて、何かの魔法をかけられた」

 押し黙ったままのボーマンへ、何も喋らなくてもいいと声をかけながら、彼の胸へ掌を押し当てた。

 集中し、カナエがボーマンの体へ自分の魔力を流し込んで[高位鑑定]を発動した。

「これは……、美子がかけられた洗脳と同じ系統、なるほど、[呪術耐性]により洗脳効果は無効化したが、付随された検知効果は発動しているな」

 カナエは人の悪い笑みを浮かべて、ボーマンへ語りかけた。

「喜べ、お前の枷を外してやる」


9月1日 文章を修正しました

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