41 自分勝手
先ほどまで歓声を上げていた町人たちはそれを聞いて静かになってしまう。彼らの寛介を見る目の色が怯えに変わったことが見て取れた。
しかし、町長は微笑みながら寛介の肩に手を置いた。
「――そのような嘘はつかなくていい。例え事実だったとしても、私が君を恨むことはない」
「……」
孫を失った悲しみは、怒りで塗り潰すことで乗り越えられる。寛介のそのような考えは、町長に簡単に見抜かれてしまった。
さらに町長は諭すように話を続ける。
「ある人のために行動すると、それ以外の人のためにならないことがよくある」
君の周りを見てみなさいと、町長は寛介へ促す。寛介のことを辛そうな目で見つめるノノやララ、怒りをあらわにしたホリーがそこにはいた。
「もちろん、人のために行動できるというのは美徳だ。大切にするべき価値観だ。しかし、それが自分の大事な人を傷つけることはあってはならないと私は年長者として君に伝えたい」
「肝に、銘じます」
町長は頷くと、寛介へ頭を下げた。
「ホリーを助けてくれてありがとう。キジはとんでもないことをしてしまったが、本当に取り返しがつかないことにはならずにすんだ」
セガールの提案で、お礼にと皆で食事をすることになり、寛介たちはセガールの家に戻ってきた。
食事の用意はホリーと是非にとかってでたノノがすることとなり、寛介とララは居間でセガールと談笑している。ナルは部屋が手狭だからと自分から言い出し、剣の状態で壁に立て掛けられていた。
「ノノさんって寛介のこと好きなんだよね?」
料理を作りながら、おもむろにホリーはそう口にする。
「っ!? ど、どどど、どうしたのですかいきなり」
突然の出来事に、ノノは戸惑いを隠せない。真っ赤に染まったその顔を見れば、答えを聞くまでもない。
「やっぱり、そうだよね。ノノさん、私もね、カンスケのこと好きになっちゃってたんだ」
「え、知ってますよ?」
「でも大丈夫、今回のことでよくわかったんだ、あいつには私じゃなくてあなたが必要なんだって。だから――って、え? ノノさん、今なんて?」
「いや、ホリーさんがカンスケ様へ思いを寄せられているなんて、皆知ってると思います」
「ほ、本当に?」
「はい。気が付いていないのは、それこそカンスケ様ぐらいではないでしょうか……、お互い苦労しますよね」
そういってため息をついたノノに、ホリーが混乱する。
「え、それだけ?」
「はい?」
どういう意味かとノノが聞き返す。
「独り占めにしたいとか、思わないの?」
「もちろん、うちがカンスケ様の一番でいたいとは思っていますよ。それよりもさっきからホリーさんは一体何が言いたいんですか?」
わかりやすく説明してほしいとノノが求める。
「ノノさんは、私がカンスケを好きなことが嫌じゃないの?」
「何でうちが嫌なんですか?」
「えっ」
ノノはあっけらかんとした態度で答える。
「強くて格好いい男の人に惹かれるのは当然ですよ」
まさかと思いながら、恐る恐るホリーはノノに尋ねる。
「た、例えば、寛介のお、お嫁さんが私とノノさんの二人でもいいの?」
嫁という単語に顔を赤くしながらも、ノノはシンプルな答えを返す。
「当たり前じゃないですか、あ、でも一番は譲れませんけどね」
そもそも、亜人の多くは一夫多妻制を推奨している。差別、迫害される対象の彼らはより良い遺伝子を残して種を永らえるためだ。もちろん、人でも貴族や王家はもちろん、村によってはそういう文化がある。
ホリー自身も知識は持っていたが、実際にその価値観に触れると衝撃を受けた。
(なら、私も諦めなくていいんだ……)
そのように考えていたホリーへ、ノノが話しかけてくる。
「ただ、ホリーさん、実はうち達には超えないといけない強力なライバルが既に存在しているんですよ」
「強力なライバル……」
「……はい、とても強力なライバルです」
ノノはしみじみと頷く、寛介によく似た雰囲気を持つ美少女の姿を思い出しながら。