39 思い上がり
衝撃により土煙がたち、ノノと倒れた巨木の姿を覆い隠した。
「ノノさんっ!!」
悲痛な声が響く。すぐにでも助けようと、ララは倒れた巨木のもとへ向かう。しかし、脆くなっているとはいえ、ララの数十倍の重さはあるであろうそれを持ち上げることは叶わなかった。
ララの足から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
「そんな……、ごめんなさい、ごめんなさい」
ポロポロと涙を流しながら、俯いているララの背中から声がかかる。
「ララさん、うちは大丈夫です……、心配をかけてごめんなさい」
ララが声の方向へ振り向くと、そこには寛介に姫のように抱きかかえられたノノがいた。彼女は申し訳無さそうな気持ちと寛介に抱きかれた歓喜の気持ちが同居する複雑な表情を浮かべていた。
「よかった……」
感極まったララが、寛介ごとララに抱きつく。
「うぷっ」
ララの豊満な胸と、寛介に挟まれたノノから変な音がなる。
「ノノが今度こそ押しつぶされて死にそうだぞ、ララ」
「あっ! ごめんなさい……」
「いえ、大丈夫です……」
口ではそう言いながら、どこか恨めしい目でララの胸を見つめるノノであった。
「でも本当に良かったです……」
「うちも、もうダメかと思いました。カンスケ様、ありがとうございました」
「お礼を言うのは俺の方だ。それに、俺は二人に謝らないといけない……」
――寛介が意識を取り戻したのは、巨人樹が倒れる少し前のことだった。
「んっ……」
「カンスケ、気が付いた?」
目を覚ました寛介に気づいたホリーが声をかける。
「ホリー、どうして……、ノノ達は?」
「二人とも戦ってるわ」
「そんな! ぐっ……」
寛介は驚いて起き上がろうとするが、体へ痛みがはしり、うめき声をあげる。
「ちょっと、大丈夫?」
[限界突破]のスキルを使った自分でさえ倒せなかった敵だ、早く助けないと大変なことになる。寛介のその思い上がりは、すぐに否定された。
重い体を起こして縦穴から顔を出すと、ララとノノが巨人樹に向かい合っている。どうやら何かを仕掛けようとしている。
寛介は二人へ声をかけようとするが、ララから感じ取れる嫌な気配に気圧され、声を出すことができない。
ララが掌を巨人樹に向けると、嫌な気配がそこへ集中していく。
「[呪法]――[脆]!」
その呟きのあと、ララがノノに向かって叫ぶ。
「今です、ノノさん!」
その合図に合わせて、ノノが飛び出す。
「わかりました!」
ノノが振るった剣が信じられないほどいとも簡単に巨人樹の幹を切り裂いたため、寛介は衝撃を受けた。だが、すぐにそれ以上の衝撃を受けることになる。
「[毒針]!」
ノノが今まで使ったこともないスキルを使うと、短剣で突き刺した部分から巨人樹が青紫色に染まっていく。どう見ても尋常な様子ではない。
「何だあれは……」
あれだけ苦戦した魔獣を相手にして、庇護対象であると思っていたノノが戦い、そして勝った。
自分の思い上がりを恥じていると、木がひび割れる音が聞こえてくる。巨人樹が自重に耐えきれず倒れようとしていた。
「ッ!?」
巨木が今にも倒れてきそうなことにに気がついていないノノへ、ララが叫ぶ。
「危ない、ノノさん!」
自立できなくなった巨木は、不運にもノノのいる方へ倒れてくる。
「キャアア――」
突然の出来事に、完全に不意打ちとなったそれをノノは避けることもできない。叫び声をあげることがやっとであった。
「ノノ!」
思わず、寛介はあるスキルを発動しようとする。
『ダメだよ、ご主人様、それは最低でも十二時間後じゃないと……』
「一瞬だけでいいんだ! なんとかならないか」
『……今回だけだよ、裏技は使いすぎると大変なことになるから』
「ああ、頼む」
『――[限界突破]』
刹那、寛介が踏み込んだ地面が弾けたかと思うと、寛介は急加速した。
巨人樹の巨体が地面を叩き地面を揺らす。
「大丈夫か、ノノ」
「か、カンスケ様!」
ノノは巨木に押しつぶされることなく、寛介にお姫様抱っこをされていた。