10 魔力操作
人間も含む生物には魔力が蓄えられている。魔法陣を介して魔力を現象に変換することを魔法と言っている。魔法を使用する際は魔法陣が必要となるため予め魔法陣を描いたスクロールや魔具を用意する。魔力の総量は精神力に依存し、魔力が枯渇すると、最悪の場合死に至る場合もあるという。
また、魔力は自分が触れているものに帯びさせることができる。魔力を帯びた物体は、能力や特性が強化される。例えば刃物に帯びさせれば、耐久性や切れ味などが強化される。
先程のカナエは指の切れ味を魔力で強化し、ミノタウロスの肌を切り裂いたのである。
「指の切れ味とか、やっぱり無茶苦茶だな……」
「何にせよ、二段階はお前がこの魔力操作を習得するのが目標だ、習得すればこういうこともできる。おい」
カナエの合図で、ミノタウロスがカナエへこん棒を振り下ろした。
ドンッ、激しい音とともに地面が割れる。普通ならひとたまりもないはずだが、カナエはこん棒を人差し指一本で止めていた。
「無茶苦茶だ……」
「なに、今はまだここまで求めないさ。さてと、ミノタウロス、好きに戦っていいぞ」
カナエがそう言うと、ミノタウロスは嬉しそうに言う。
「ホンバン、コンドハカンタンニハヤラレナイゾ」
ミノタウロスはこん棒を捨てて、構えたかと思ったら拳で突きを繰り出してきた。先程までのこん棒での攻撃よりも遥かにスピードが上がっている上に、その拳は[硬皮]によりとてつもない硬度である。非常に理にかなった戦闘方法だ。
ただのワンツーのコンビネーションが寛介に対しては必殺の威力を持っている。
「避けるのでやっとだ、さっきまでは手を抜いていたってことかよ」
「コノママダト、ジリヒン、ハンゲキシテコナイノカ」
寛介はダガーを抜き、隙をついて斬りかかるが、やはり刃が通らない。
「くっそ、魔力を帯びさせるってこうか?!」
寛介はダガーに意識を集中しながらダメもとで念じてみる。
『魔力おびろ!』
すると、ダガーに埋め込まれた宝石が光ったような気がした。
「光った!? まさか――」
寛介はダガーを通して宝石に血を通わせる、鑑定珠や念話珠を使ったときと同じイメージで力を込めてみる。
すると宝石がはっきりと光り、その光が刃を包み込んだ。
「なるほど、これが魔力操作――」
宝石の補助によりコツを掴んだ寛介はミノタウロスに斬りかかった。
「しゃっ!」
ミノタウロスの腕から血が垂れる。非常に浅いが傷をつけることができた、これで与えられた課題はクリアしたことになる。
「ヨカッタナ、コレデ――」
ミノタウロスが言い終わる前に、寛介はダガーを鞘に収め叫ぶ。
「まだだ! もう少しで感覚が掴めそうなんだ、もう少し頼む!」
補助してくれるダガーに頼らずに魔力操作を使いこなしたいのだろう、寛介がそう言うと、ミノタウロスもそれに応える。
「グモオオオオオオ!」
「いくぞ!」
寛介が魔力操作で全身を強化した。最初こそミノタウロスの攻撃が目立っていたが、攻撃を避けながら寛介も攻撃を繰り出す。そうして次第に寛介の手数が増えていった。
疲れからかミノタウロスの繰り出した不用意なストレートを寛介は最小限の動きで躱すことができた。ここがチャンスと拳に魔力を集中させ、みぞおちへ打ち込む。
「っ!?」
「ウオ……」
「やるじゃないか」
寛介の拳はミノタウロスの意識を刈り取った。カナエも驚いた様子で呟いていたが、一番驚いていたのは寛介本人だった。
「今のは……?」
拳を見つめながら、寛介は先程の感覚を反芻する。拳に集中させた魔力がミノタウロスの体内へ流れていき、その体内で大きな衝撃となって伝わったことが理解できた。
「ご苦労だったな、ミノタウロス」
どこからか現れたカナエがミノタウロスにヒールをかけながら言った。
「さて、これでお前には基本的な能力が備わったな――」
カナエは蠱惑的な笑みでこう告げた。
「明日から、私と五日間殺し合いをして修行終了となる。だがその前に――」
カナエがぱちんと指を鳴らすと、空間が歪んでいき視界が暗転した。
視界を取り戻した寛介が周りを確認すると、そこは湯けむりが経っており、硫黄の匂いが周囲に充満していた。
「温泉……、何でこんなところに?」
「良いものだろう? お前も早く服を脱いで浸かると良い」
カナエが既に温泉に浸かっていた。服を来ていてもわかる大きな胸がお湯に浮かんでいた。カナエの細かい動きに合わせて大きく揺れるそれは寛介にとって目の毒でしか無いようで、顔を真っ赤にしながら背を向けて叫んだ。
「脱げるか!」
寛介の反応が予想通りすぎたのか、カナエは非常に楽しそうである。
「温泉に浸かるのも修行の一種だ、早くしろ。ほれ」
おもむろにカナエが立ち上がると水着を着ており、いたずらに笑いながら言う。
「くくく、水着なら恥ずかしくないだろう?」
「そういう問題じゃない!」
「童貞君は難しいなぁ、こんな美人でスタイルの良いお姉さんの体なんてお金出してでも見るべきものだぞ?」
「自分で言うな!」
やれやれと呆れ顔で、カナエは温泉から去っていった。一人になった寛介は服を脱いで温泉へ浸かった。そして自分の体を見てあることに気がついた。
「何か筋肉がついてる……気がする」
気のせいではなかった。転移してから1週間も経っていないが、明らかに体つきが変わっている。
「当然だ」
何故かカナエが温泉に浸かっていた。カナエが温泉に浸かりながら気持ちよさそうに話す。
「オルトロスやミノタウロスとの戦闘でお前のレベルとステータスは短時間でかなり上昇している。ステータスの上昇は身体にも変化が起こる。筋肉質になっても何もおかしくない」
カナエの目が光ったかと思うと、寛介の背筋がゾクリと震える。
「今のは何だ……?」
「ステータスも加護持ちの兵士程度までは上がってるな、これなら高位の魔獣でも一対一ならまず死なないだろう。あとは――」
12/20 ステータスの記述を修正しました(数値等は変化していません)