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神託と大錬金術士

 この迷宮都市に移住してきておおよそ四年、ついにワシが今まで錬成してきたモノの集大成である「錬金レシピ覚え書きの書」を書き上げた。


 この本はワシの生涯三冊目の書にして初の錬金術に関する書じゃ。

 因みに過去二冊は学園の授業用に書いた魔術教本じゃ。口述筆記での製作じゃった為にあれも中々時間がかかったが、今回は本業である分だけ感慨深いものがあるわい。


 本来ならもう少し時間がかかるかと思っておったが、弟子となったラジエルが思いのほか優秀で随分と時間の短縮になった。


 リーベルトとの迷宮探索をしながら、ワシの執筆の手伝いをし、さらに編集と複数冊の写本の製作を進めておったのじゃから驚きじゃ。


 ラジエルの作った写本は王国の錬金術ギルドと知識教の神殿に納めたのじゃが何処まで公開するかで揉めておるらしい。

 知識教はともかく錬金術ギルドは派閥争いやら何やらでろくなものではないからのぉ。

 一応義理で渡してはおいたがまあ、良いことにはならんじゃろうな。


 そして今、新しく書き始めたのがこの世の真理に近づく為の入り口である「霊素」に関する論文じゃ。

「霊素」に関連する記述が、自身にかけられた制約が解けたことで可能になったのじゃな。

 関連資料として「ダンジョンの作り方」と「異世界の知識と考察」なるものも製作中じゃが、この異世界知識をバルキリー達に任せたところ、取り留めのない内容で数千枚を書き散らしおって収拾がつかなくなっておる。


 現状の報告としてはそんなところなのじゃが……


「お父様、新しい報告があります、と申し上げます」


 むー、またか。


「今朝方神託が有り、先頃の【異端認定】に続き、お父様は人類の敵【魔王】に認定されました。霊素に関する執筆に対する報復と思われる、と申し上げます」


 なんと、老い先短いジジイ相手に随分と大袈裟な事をしおるわい。


「このたびは法神、光神、武神を中心とした神々の連名によるもので、これに対し知神、魔術神、軍神などからは【聖人】認定の神託がなされております」


 最近は高位存在、神々の世界も一枚岩ではないようでご覧の通りじゃ。

 派閥争いが中々激しいようで、現在地上は大混乱じゃな。


 各神殿は崇める神の方針に従っておれば良いのじゃろうが、各国の為政者達は大変じゃろうのぉ。


 特定の宗派に傾倒した国家でも無ければ、あちらを立てればこちらが立たずといったところじゃろう。


「では、各国に書簡を送っておくかのぉ。内容はそうじゃな『10年内には大往生して見せるので放っておいてくれ』こんな感じで頼むわい」


 しかし、余計な横やりを入れてくれたものじゃわい。


【魔王】ともなれば歴史書に記されるのは確実。ところがじゃ、その内容は薄ら寒いものになるのは間違いない。


 例えばじゃが、前【魔王】は現在こう記されておる。



 ×××年 【魔王】ヤルタ=モグローブ即位


 ×××年 邪神の侵攻に呼応、人類に宣戦布告


 ……


 ……


 ……


 ×××年 カンダラル開戦にて討ち死に


 とまあ、こんな感じじゃ。


 これがワシになると



 ×××年【魔王】ゼクセン=コラルド即位 ×年後老衰で死去



 一行じゃ!

 死去を別にしても二行。


 これはあんまりじゃと思わんかの?

 さらに歴代魔王の系譜などで


 一代略


 これをやられたらワシはもう立ち直れぬ自信がある。

 そもそも、即位して何もせぬまま数年で老衰死する【魔王】とか恥ずかしすぎる。


 これはもうアレじゃな。

 高度な精神的嫌がらせの類じゃ!


 せめて「一代略」回避の為に何かやらかしてやろうかと思ってしもうたわい。

 まあやらんがな、めんどいし。


 いやぁ、高位存在は陰険じゃわい。


 こうしてワシが高位存在からの精神攻撃に唸っておると、「バン!」と部屋の戸が乱暴に開けられる。


 そしてワラワラと押し入ってくるバルキリー達。


「ジジイ魔王になったって!すごーい」


「すきにすればイイんじゃない?」


「あーあ、ゼクセン殺されちゃうんだぁ」


「魔王、失笑」


「……イイかも」


「魔王の眷属とか勘弁なんだけど?」


 ガヤガヤとうるさいのぉ


「ところでお父様、即位式の日取りはいかがいたしましょうか?」


「即位式とな?」


「はい、魔『王』なのですから当然かと。しかもお父様は数多の高位存在から指名された神命の王。大々的にお披露目をいたしましょう」


 この娘はいったい何を言っておるのか……


 魔王になった事を誇るなど、どう考えても高位存在を挑発しておるようにしか思えんわい。

 この何でも煽ってゆくスタイルは何とかならぬものかな。


「私としては迷宮一階を貸し切り更地とし、会場とするのが良いかと考えます」


 やめて!恥ずかしいからやめて!


「あ、あまり派手なのは好かぬのでな、やるとしてもマリーナさんの所を貸し切って身内だけで頼むのじゃ」


「しかしそれでは……」


「本当に勘弁じゃ」


「はい、仰せのままに。陛下」


 ブゥー!?


 ゲホッ!ゲホッ!


 思わず吹き出してしもうたわい。いったい何の冗談じゃ。


「陛下はやめい、陛下は!」


 これ以上の羞恥プレイは勘弁じゃ!


 しかしワシのこの反応を見たバルキリー達の間で「陛下」が大流行!


 元どうりの平常運行に戻るまでに10日を要し、その間ワシはひたすら悶えたのじゃった。


 高位存在の嫌がらせ、恐るべしじゃ!


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