湖の討伐依頼
「お父様、討伐の依頼に出発します。ご準備下さい」
ワシが朝の散歩から戻ると宿全体がバタバタと騒がしい。
それに討伐依頼とは?
「東の森にある湖で狂った水精の異常発生が確認されたので、討伐に参ります」
「依頼と言ってもお主らはギルドに登録してはおらんかったはずじゃが?」
「其処はS級冒険者の名を使えば何事もなく依頼の独占に成功しました、と申し上げます」
ああ、リーベルトの名を使うたのか。
アルテアはこういった事に躊躇がないのぉ。
聞けば本来、中堅以上の複数パーティー向けの募集をリーベルトの名で一括受注、人手はこちらで揃えると断ってきたようじゃ。
「では、出立の時刻が迫っております。参りましょう」
ワシはまだ朝飯も食っておらぬとゆうに少し待たぬか、あ、こりゃ人を担ぎ上げるでない。
あーれーさらわれるぅー(棒
アルテアの肩に担がれ、バルキリー達に囲まれた状態で運ばれるワシ。
こりゃ!槍の石突きで尻をつつくでない!
後ろからゾロゾロとついてくる「地上の光亭」の面々にもクスクスと笑われておるではないか。
抗議も虚しくそのまま都市の東門まで、狩りの獲物のように運ばれるワシ。
そうじゃ!
「アルテアや、ワシは駆け出し共との薬草採集が有るのじゃが……」
「問題ありません。全て対処済みです」
はい、そうですか。
門番に討伐依頼である事を告げて都市の外へ。
其処には既に20人近い集団と2台の荷馬車が待機しておった。
ん?リーベルトとラジエルを筆頭に「エルザの酒場」の常連連中のようなのじゃが……
カナレリアの脳筋共と怪我の治った衛兵達まではよいが、手に手に武器を携えたガンドの弟子共までおるではないか。
討伐依頼にしては皆、妙に軽装なのも気になるのぉ。
「これはいったい何の集まりなのじゃ?」
疑問をそのまま口にしてみる。
「この都市の水源であるカロラ湖 に異常発生した水精の討伐隊とゆう事になっておるのである」
「事になっておる?」
「う、うむ」
煮え切らぬのぉ。こりゃ、ラジエル。
「はい、実はお店の方で姉さんが水着を新調した事が話題にあがりまして、マリーナさんやテレシアさんも水遊びに行きたいと……」
「で、そこのジジ馬鹿が押し切られて、ついでに客共が付いてきたと」
「男共は要らぬと思ったのではあるが、地上げ騒ぎの慰労会も兼ねてとなっては頷くしかなかったのである」
それはまあ、仕方ないかのぉ。
じゃが、
「それにしては女性陣が揃っておらぬようじゃが」
「『剣の調べ』とお主が面倒を見ておる駆け出し共を護衛につけて後発組として来る予定である」
ほむほむ、ならば早く現地での露払いを済まさねばならぬな。
マリーナさんやテレシアちゃんの水遊び。
よい!非常によいぞ。
カロラ湖に向け移動を開始する40人近い集団。
皆鎧は付けておらぬが手に手に武器を持ち荷馬車を囲んで移動する。
これでは端から見ると移動中の傭兵団か略奪帰りの野盗にしか見えんのではないかな?
歩くのを嫌がり、中央の荷馬車でくつろぐバルキリー達も、さらわれてゆく被害者に見えんこともない。しかもこやつらいつものお仕着せでは無く、それぞれ色違いのワンピースにサンダル、麦わら帽子と遊ぶ気満々のかっこうじゃ。拐かされた良いとこのお嬢達感結構あるわい。
現にワシらを見て隠れるように道からそれてゆく集団を三つは見たのじゃよ。
ギルドで旗でも借りてくればよいものを。
この辺りはまだ迷宮都市に近く冒険者の往き来も多い為、野盗の類いが活動する余地は無い。
石を投げれば高い戦闘力を持った冒険者に当たる危険地域で犯罪を冒すほど、奴らも馬鹿では無いとゆうことじゃな。
じゃから先程の集団も変な通報などせんでくれれば良いが。
その後道中何事も無く進み、目的地にたどり着く。
昼まではまだまだ時間があり討伐がスムーズに進めば昼前には水遊びのベースキャンプが構築できるじゃろうて。
さて、問題の水精じゃが……
水面に浮かび、ふらふらと動く水の塊。
こりゃ凄いわい、中々の広さを誇るカロラ湖であるが、ざっと見て50程もの水精が蠢いておる。
この水精、本当に滅ぼしてしまうと湖が荒れてしまう。水の管理者じゃからな。
で、昔から水精が暴れるのは水源に何か異物が入った時と相場は決まっておる。
なので、見える限りの水精を足止めし、その間に異物の排除を行う必要がある。
では、作戦の発表じゃ。
先ずは本陣、水辺でリーベルトが結界を張り冒険者達が水精を足止めする。
水精は余程高密度の魔力を当てでもしない限りは暫くすると再生しおるから、異物排除が終わるまでひたすら戦う体力任せの部署じゃ。
次に遊撃の釣り部隊。
ここはアインらバルキリーから4体、水面の水精達を空中から誘導し本陣に誘い込む。
突入部隊の負担軽減が目的じゃ。
最後が突入部隊。
アルテアを筆頭にラジエル、ゼクス。
本隊が粘る間に湖に潜り異物の排除を行う。
こんな感じじゃな。
ん?ワシか?
ワシはフィアの護衛付きで後方待機じゃ。結界の端っこで大人しくしながらリーベルトに何かあった時のバックアップと不測の事態が起こった時のアドバイスじゃな。
リーベルトに何かあるとかもう終末戦争とかのレベルじゃからな、実質戦力外通告じゃ。
水辺に陣取りベースキャンプを設置する。
各自が得物を手に取り、ワシとリーベルトが保護魔術をかけてゆく、水中に引き込まれてはマズイので鎧はなしじゃ。水精の攻撃は鎧では防げぬしの。
本陣の準備が出来たところで「スルリ」と遊撃隊と突入部隊が服を脱ぎ捨てる。
咄嗟のことに固まる男達、そして一瞬後に響く大音量の歓声
「「ウオォォォぉぉ!!」」
「スゲェ!スゲェ!きて良かった!!」
「あんな小さな布だけで!さすがアルテア様は違うぜ!」
「ちょ!ヤバ、まっすぐ立てない」
うむ、視線は水着のアルテアに釘付けじゃな。
ワシが作らされた異世界の可愛い水着は「勝負下着」程ではないが、いささか煽情的に過ぎると思うのじゃ。
そして不満そうなのは周りのバルキリー達じゃな。攻めておるとゆう意味ではアルテア以上の者もおる中、男共の視線をアルテアに独り占めされては立つ瀬が無いのであろう。
フュンフなどは、ほおっておくとポロリを自演しそうな構えにすら見える。
まあ、バインバインなアルテアとまな板イカ腹のこやつらでは基礎戦力から違い過ぎるのじゃな。
しかしこのままでは収拾がつかぬな。
ではこうじゃ!
本来はこんな事に使う術では無いのじゃが戦力の半分が前屈みでは話にならぬし、アルテアが肌を晒しておると思うと周りの男共にイライラして来た。
てい!
発動する光の幻惑魔術。どこからとも無く差し込む柔らかな光がアルテアの激しく露出した肌を隠す。
隠れておらぬのに、角度を変えれば見えそうなのに何故か見えぬ光の絶対防御。
完璧じゃ。
ワシやリーベルトの様な高度な魔術視でも無ければ見通すことの出来ぬ不思議な光なのじゃな。
一斉に上がるブーイング。
じゃが知らぬ、お主ら前屈みでは戦えぬじゃろ?
いたッ!
なんじゃフィア、何故ワシの足を踏んでおるのじゃ。
お主もアルテアの肌が見たかったのか?
いたい、いたい!
違うのか。ではなんじゃ? むっ………… こうかの?
てい!
アルテアにかけたのと同じ術をバルキリー達にもかける。
不思議な光に覆われる幼児体型達。
おお、足を退けてくれたわい。嫉妬じゃか、アルテアと同じ扱いをされたかっただけか。とにかくこれで正解じゃった様じゃ。
「あー、ゼクセン様、そっちは別に隠さなくてもさすがに……」
「確かにその子なんかはとんでもない格好してますが、おそらくロリコンはお一人だけかと……」
な、な、ワシをなんじゃと思っておるのじゃ!
こやつらいっぺん頭の中をグチャグチャに掻き回して全て忘れさせてやろうか?
全く失礼な奴らじゃ。
もう良い作戦開始じゃ、サッサと持ち場に散るが良い。
突入部隊が水中に潜り、遊撃隊が水しぶきを上げ低空で飛び立つ。
男共は水辺で水精退治じゃ。
んー、冒険者共は上手いこと水精を食い止めておるがガンドの弟子達にはちと荷がおもいかの?
そもそも、こやつらは何故一陣できておるのじゃろうか?
おっ!一人が当てたわい、しかも水精にかなりのダメージじゃ。アレは武器の性能じゃな。
成る程、遊びに出る代わりに自分の打った武器の性能のテストをさせられておるのじゃろう。
ほかは、やはりカナレリアの脳筋共が最も成果を上げておる様じゃが「地上の光亭」関係の安定感も凄いのぉ。
リーベルトの支援があるとはいえ誰一人離脱せぬ。
うむ、順調すぎて暇じゃ。
疲れたので倒木の上に座る。フィア、お主も立ちっぱなしで無くとも良いぞ。ん?
ああ、直に座ると尻が痛いのか、それはそうじゃろう。そのV字の紐の様な水着ではのぉ。
仕方ない、ローブを脱ぎ、下に敷いてやる。
ふむ、これなら座るか……
間が持たぬな。これ、フィアや、口を開けてみよ。
何時もの砂糖菓子を放り込む。
足を蹴られた、痛い。
…………
ふぅー、はよう終わらぬかな。