すーすーしない戦乙女
わしは現在迷宮の地下24階、ラジエルの錬金工房に拉致されチクチクと針仕事をさせられておる。
この歳になると目が霞んでなかなか針に糸が通らんとゆうにひどい話じゃ。
ここしばらく、昼になるとアルテアとバルキリー隊が押し寄せてきて力づくでここに連れてこられるのじゃ。
チクチクと縫い続けているのは彼女らの下着じゃ。
うむ、下着なのじゃよ。
良い年をしたジジイが地下に篭って黙々と幼女らの下着を縫っておる姿は他人には見せられぬわい。
先日の邪術士討伐の際ツヴァイの服が全て溶かされるとゆうアクシデントがおこった。
これを危惧した彼女らは自分達の服などを全ては無理としても最後の砦である下着だけでも優秀な魔術的耐性を備えた物をと考えたようじゃ。
既存の下着に陣を刻み術をかけるだけならばと気安く引き受けたのが運の尽きじゃった。
まず前提としてわしが死んだ後も大丈夫なように、最低3000年の耐用年数を求められた。
こ奴らはいったいどのくらい稼働し続けるつもりなのじゃろうか。
次に数じゃが、6体+アルテアに洗い替えで14・15枚くらいかと思っておったら各々最低でも10枚を要求されたのじゃ。
デザインや材質等が少しづつ違う100枚近い下着を渡された時のわしの絶望感を想像してみるが良い。
悲しいやら、情けないやら。
この難題に挑むにあたって最初に思い付いたのはラジエルに丸投げする事じゃった。
錬金人形にして錬金術士でもあるラジエルはこういった同じ作業を繰り返す事が得意じゃ。
人のようには飽きがこずに集中できるからのぉ。
じゃが、この名案はアルテア以外の6体によって却下されてしもうた。
「ラジエル君に下着見られるとか無理」
「ジジイデリカシーなさすぎ」
「セクハラジジイ死ねばいいのに」
「ジジイ有罪」
「……イヤ」
「正気を疑います」
こんな感じじゃ。
こやつらの中ではジジイは既に男では無いとゆう事か、わし悲しい。
じゃが一人で100枚は無理じゃ。
そこで考えたのが下着に魔力を込める為の魔道具じゃな。
この中に対象物を入れて魔力を通すだけで魔術が付加されるとゆう優れものじゃ。
100年位しか効果は保たぬが魔道具の原理とメンテナンスはラジエルに仕込んでおいた。
これで耐用年数問題もクリアじゃ。
うむ、わし凄い。
ところがじゃ、ここでアルテアがマリーナさんから余計な情報を仕入れてきた。
それが「勝負下着」じゃ。
ここぞとゆうときに履く最上の一枚!
これを素材から厳選し全霊をかけて作れとゆう。
わしの前に並べられるデザイン画達。
どうやら其々の中にある悪魔達の異世界知識から引っ張り出してきたものらしいが……
い、異世界侮りがたし!
透け透けレースに始まりテカテカ光沢やらシマシマやら。
さらにさらに、どれもこれもやたらに面積が小さい!
もしもこれらを着用した嫁に迫られていたら、わしでは絶対に我慢できない自信があるわい。
この世界の縫製技術では再現できそうも無いこれらをわしの魔術と錬金の知識を総動員して制作してゆく。
糸の一本一本、針一針に魔力を込め、小さな布地達と格闘する。
アルテアはともかく、あの幼児体型どもには過ぎた物よと思いつつも数の暴力には勝てぬ。
約束どうりに全霊をかけて仕上げてゆく。
1日が終わり魔力を使い果たした頃になると迷宮の探索を終えたリーベルトとラジエルが戻り、皆で地上へと戻る。
そして次の日にはまた工房へ
せっかくバルキリーが6体揃い、さあこれからとゆうときにわし何をやってるんじゃろう。
そして今、最後の一枚が縫い上がる。
この最後の一枚はフィアの注文によるものでワシにはヒモとの違いが分からぬ代物じゃ。
これで本当に下着として機能するのじゃろうか?
じゃがもう、わし知らんもんね。言われたまま作ったしこのまま納品じゃ!
隣室で待機しておるアルテア達に全ての作業が終了したと告げると、その場で試着会が始まってしもうた。
不都合などは無いとは思うがあればなおさねばならぬ。正直めんどい。
それに、はようせねばそろそろリーベルト達が戻る頃合いじゃ。
「さすがはお父様、要求どうりの完璧な仕上がりです」
「やっぱりこうゆう可愛いのがなくっちゃね」
「これならもうあんな目には……」
「全員分のサイズまで完璧なのは逆に引くかも」
「ラジエル、墜とす」
「……イイ」
「む、私の少し大人しすぎたかも」
特にクレームとかはないようじゃ、わしゃ疲れたわい。
「って、なんで当然のようにジジイがここにいるのよ!」
何故と言われても出て行けとは言われておらぬし、自分の造った人型に欲情する変態でもないのじゃよ。
まあ、さんざん変態だのデリカシーがないだの罵られたので部屋から出ておくかの。
バルキリー達からの罵倒を浴びつつ外へ出ようとすると目の前で戸が開く。
リーベルト達が戻ったようじゃの。
そうじゃ! 良いことを思いついたわい。
こき使われた事にチョットだけ仕返しじゃ。
扉の前にはリーベルトとラジエル。
後ろには下着姿のバルキリー達
スッと横に避けるわし。
上がる悲鳴、煙を吹いて倒れるラジエル。
ほっほ、しばし場は大混乱じゃ!
これでわしは少し溜飲を下げたが、混乱が収まった後にリーベルトとアルテアの説教が待っておった。チョットしたおちゃめじゃとゆうに頭の固いやつらめ。
おまけに罰として全員分の水着の製作が言い渡された。
むー。納得いかんのぉ。