大錬金術士の戦乙女
普段どうりに駆け出し共と薬草の採集を終えギルドに戻る。
今日はラジエルの帰還と共に邪術士に襲撃をかける算段になっておる。
分担は、ワシ、アルテア、ラジエルが邪術士の担当。
雇い主の対応はリーベルトが集めて来た冒険者と共に行う。
面通しをして見れば、殆どが「地上の光亭」の宿泊者じゃったが手頃なところで妥協したのかの? リーベルトにしては珍しい事じゃ。
マリーナさんの身の安全は「剣の調べ」と店の常連達に任せた。
いつものように書き物をし、時が来るのを待つ、どうにもこの間から心が高揚していかんな。
ワシはこれといって荒事が好きなタチではない筈なのじゃが悪魔が狩れると思うと、どうにも辛抱ができぬ。
とても大事な事の筈なのじゃ。
じゃが、それが何故なのかは自分でもわからぬ。
何か重要な事を忘れておるのかも知れぬ。
歳かの……
そろそろ日が暮れようかとゆうころ、大きな荷物を背負い、甲冑姿の5人の少女にまとわりつかれたラジエルがギルドの入り口をくぐってきた。
いよいよじゃな。
「親父殿、今戻りました」
「うむ、厳しい日程でよく戻ったな、たいしたものじゃ。 しかし、随分となつかれておるのぉ」
「はい、何故かいきなりまとわりつかれて離してくれないのです。ずっとこの状態で期日に間に合わないのではないかとヒヤヒヤものでした。この都市の大門を通るのにも色々詮索されたうえに物凄く睨まれたんですよ」
……
それはアレじゃ、嫉妬じゃろうなぁ。
考えてみると良い、14、15歳くらいの美少年が10歳くらいの美少女5人に囲まれてちやほやされている光景を!
自分には恋人の一人もできないのに顔がいいだけでこんな子供が沢山の美少女をはべらせている。ぐぬぬっ!納得いかーん!
と、まあ、こうじゃな。
しかしおなごに免疫のない割には、この状態で戸惑うだけで下心の一つも出さぬとはラジエルは巨乳至上主義者か歳上にしか反応せぬかのどちらかかの?。いや、こヤツの中身は1000歳越えだったか。
おお、そうじゃ、この少女達について説明しておこうかの。
女性型悪魔の魂を核にワシが造ったらしいアルテアの支援用ゴーレム、「バルキリー隊」じゃ。
らしいと言うのは、その辺りの記憶が曖昧での、使われておる技術などからワシが造ったには間違いなさそうなのじゃがどうにもこの悪魔狩り関連になると記憶に霧がかかったように曖昧になってしまうのじゃよ。
まず戦闘力じゃが、一線級の冒険者程度。丁度テレシアちゃんの相手が務まるくらいか。
主な役割としてはアルテアにはできぬ魔術の使用、遠距離戦闘、対空戦闘を担当じゃな。
そう、飛べるのじゃよ。背中から光の羽が生えてこう、バーっと飛んで行くのじゃ。
他に特筆すべき特徴としてはアルテアとの完全同期。ある程度の距離であればアルテアがマニュアルで操作することが可能なのじゃ。本体を入れて6体の達人級による完璧な連携攻撃、悪夢じゃな。
外見についても触れておこうかの。
武装は腰に剣、他にそれぞれ槍か斧槍か弓、槍2、斧槍1、弓2。
防具は皆同型のドレス型鎧。
あとは、それぞれ髪型は違うが皆同じ顔、同じ体じゃ。
以上じゃ!
…………
むー。
そうじゃ、嫁じゃ。
出会った頃の嫁そのままじゃ!
美しい金の髪に愛らしい顔立ち、整いすぎた顔のアルテアとはまた違う美少女じゃ!
体は上から下までストン!
どこからどう見ても世界一いい女でワシの女神の嫁の子供の頃そっくりじゃ!
どうじゃ、恐れ入ったかコンチクショウ!
これでマリーナちゃんのお店でロリコン呼ばわり再開確定じゃ!
自慢ではないがワシが長い人生でまともに会話をした女性といえば嫁と女中頭の二人のみ!おのずと顔のレパートリーもその程度じゃ。嫁か女中頭。
女中頭はアルテアで使うたから残るは嫁のみだったのじゃろう。
あーもう顔が熱くなってきおったではないか!
今は良い、今は良いのじゃ、落ち着けワシ!
やるべき事をせねば。
ギルドの受付嬢に手はずどうりに伝令を頼み、預けておいた金属製の杖を受け取る。
「ラジエルよ、忙しくて申し訳ないがもうじき決行じゃ、奥にアルテアが居るから打ち合わせを頼むのじゃ。
あとは、申し訳ないが背中のアルテアの武装を引き渡したら残った6番機の入った箱はそのまま背負っておいておくれ。
六番機には現地で直に核を、悪魔の魂を注入するからの」
ラジエルに指示を出し杖を渡す。
「これを使うが良い。ダンジョン探索用にリーベルトが確保しておったお主用の杖じゃ。
ダンジョン産の業物じゃぞ?使いこなしてみせるが良い。
それからバルキリー隊はここで待機じゃ。アルテアの準備が出来次第出発するぞい。」
「あ、じじいだ。ヤッホー」
「えー、私ラジエル君と一緒がいい」
「ゼクセンまだ生きてたんだ、早く死ねばいいのに」
「じじい、否定。美少年、肯定」
「…………いや」
あー、こやつらは相変わらずじゃのぉ。核になった悪魔の影響かワシの言う事をあまり聞かぬ。
術を使えば命令をする事は出来るのじゃが、それをやると後で拗ねて暫く口をきかなくなる。
中々に面倒くさいのじゃ。
じゃから、基本的にこやつらの相手はアルテアに任せておる。
こやつらのは、上位者であるアルテアには絶対服従で、素直に言う事を聞くからの。
ん?バルキリー隊の動きが止まる。
ああ、これはアルテアじゃな。
バルキリー一番機「アイン」がアルテアの声で言う。
「お父様暫くおまちください。準備を終え次第そちらに。バルキリー達の無礼には後で報いをくれてやりますのでそれまでご容赦を」
同期を使うとこんな感じで、バルキリー本人の意思よりアルテアが優先されるのじゃよ。
アインを通して伝えられたアルテアの言葉に、
「うわ、わたしとばっちり〜」
「アルテア様お怒りですね……」
「おそらく、わたしが一番まずいですわ!」
「警告、警告、非常事態」
「…………いや」
騒がしい。
周りの冒険者どもからも注目の的じゃ。
仕方ない、ワシは懐から小瓶を取り出すと中身の飴玉をバルキリー達の口の中に放り込んでゆく。
これで暫くは静かになるじゃろう。
バルキリー達が飴玉をしゃぶり尽くした頃、ギルドの奥からアルテアが現れる。
普段のお仕着せの上から嫁より受け継いだドレス型鎧を身につけ、同じく嫁譲りの神剣を下げておる。
美しいのぉ。昔の嫁を思い出すわい。
ん?鎧の胸甲部を着けておらんようじゃが。
それにラジエルの顔が真っ赤じゃ。
ワシの視線に気がついたらしきアルテアは
「胸甲は諦めました、サイズが合いません。ラジエルにも手伝わせたのですが私の胸がワガママを言うので無理でした。困ったものですね。」
自慢げに言い、そして揺らす。
「「おお〜!」」
バルキリーのうち数体が感嘆の声をあげ、ワシを見る。
お主らはそれで上等じゃ。
「すでに目標の位置は把握済みです。はやく参りましょう」
アルテアを先頭に一糸乱れぬ進行を開始するバルキリー隊。
既にアルテアと同期を始めておるようじゃの。
ワシもそれに続こうとした時ラジエルがすがりついてくる。
「親父殿!胸甲が胸甲が下からの圧力に負けて弾けたのです! バイン! って……、わた…僕はどうしていいかわからなくて、親父殿ぼくは」
なんとそのような事が!それはさぞや衝撃的であったであろう。
しかしじゃ。
「良い、良いのじゃよラジエル。じゃが今は忘れよ、その事を考えるのは帰ってきてからでも遅くはない、さあ、行こうぞ」
「はい、親父殿」
さあ、狩りの始まりじゃ。