旧歓楽街の対決
両手で剣を構えたテレシアちゃんがジワジワと間合いを詰める。
動いた!そう思った瞬間、前に出たはずの少女は後ろに向かって吹き飛びリーベルトの結界に優しく受け止められた。
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なんじゃ?何が起こったかサッパリじゃわい。
振り返りアルテアを見る。
片足を前に突き出した状態で止まっておるな。
人造物で片足停止はかなりの難易度なんじゃぞ?製作者のワシすごい!
まあ、今はそんなことよりこの喧嘩じゃ。
「リーベルトよ、ワシなーんも見えんかったんじゃが解説してくれい」
「解説するほどの事は起きておらんのである、カナレリアの娘の動きが雑すぎてカウンターの前蹴りがマトモに入ったのである」
あれだけ早くても雑とか言われてしまうのか、武芸者とゆうのは厳しいのぅ。
「あの入りでは初動が丸わかりなのである。しかも一足の間合いではなく三歩。あのザマではアルテア相手に振りかぶった剣は振り下ろせんのである」
いや、そんなことを言われてもワシ全く見えんかったんじゃがの。
ふむ、
「あの、テレシアちゃんをお主はどう見るかの?」
「よく鍛えられたダンジョン専といったところである。おそらくまともな対人経験がないのである。 魔物を相手にするための剣を教わっているはずで、それ以外は知らぬとみる。 この迷宮都市では、まま見るタイプではあるのであるな」
「じゃが、マッセン流なのじゃろう?」
「対人と対魔物では違うとゆうことである。お前の魔術が一対一の対人でしか相手を倒せぬのと同じであるな」
そんなものかのぉ?
おっ、立ち上がったぞい、まだやる気じゃ。
「少しは考えたようであるな。格上相手の渾身の突き、お前のところの執事が似たようなことをやっておったのを見たことがあるのである」
「構えただけでお主にまでバレてしまうようでアルテア相手に通用するとおもうかの?」
「まあ、無理であろうが見ていると良いのである。」
だから見えぬからお主に聞いておるのじゃとゆうに。
テレシアちゃんは先ほどより低い構えでジリジリ間合いを詰める。
「アルテアの間合いが読めぬから、ああいった形になる。実際には既に間合いの中なのであるがな」
お?止まったのじゃ。
睨み合う。
「相手が踏み出せば突きの射程に入るギリギリがあの距離なのであろう。自ら前に出る技量が無くて待ちの形になる。よくあることである」
対するアルテアは、無造作に踏み出す。
反応して動くテレシアちゃん。
キンッ!
金属同士のぶつかる音
突き出された剣の切っ先は、ワシが貸し出した杖の先と点と点でぶつかり合い、力が乗りきる前に抑えられておった。
驚愕に目を開き咄嗟の判断で下がろうとするテレシアちゃんは、杖で足を引っ掛けられて転倒。眼前に杖を突きつけられて詰みじゃ。
と、まあこれはリーベルト大先生の解説で分かった事じゃがな。
ワシ視点じゃと、アルテアが動く→キンッ!→テレシアちゃんコテン。
これだけじゃ。
周りの野次馬共もポカンじゃな。
脳筋冒険者共と衛兵達はなんとか見えておったようで、まあ、さすがといったところじゃ。
「まさか、本物の【鉄壁】がこんな所で……」
テレシアちゃんは色々とショックを受けておるようじゃな。固まってしもうておる。
「教育以前の問題でしたか。このような歪な剣を教えるなどあのバカ弟子とは一度話を付ける必要がありますね。可哀想なので、あなたの無礼な態度は水に流しておきます」
手を差し伸べテレシアちゃんを起き上がらせると腰に手を回し担ぎ上げる。
「え?え?なに?なんなんですか!?」
「はじめにあなたを教育すると宣言しました。これから私の手伝いをさせながら人間の動きとゆうものを学ばせます。」
「ちょっと、降ろして下さい!若様!助けてください!」
「ああ、テレシア。剣士が勝負を挑み負けたんだ、覚悟を決めなさい」
「いーやー」
店内に運び込まれてゆく少女。
妹センサーと師匠モードの両方が発動したアルテアに捕まるなど、なんと哀れな……
「お嬢が手も足も出ないとか初めて見たぜ」
「まあ、相手が悪い。それはそうと攫われちまったが……」
「あの娘らはアレだろ?ダンジョンの現役最深記録保持パーティーの『剣の調べ』」
「完全に子供扱いだったもんなぁ、まあ、俺の時は杖どころか素手だったけどな」
「取り敢えず店に戻って飲み直そうぜ」
うむ、ワシらも結界の後始末をして戻るとするかの。
おお、そうじゃ。ひ孫よ、試しにこのリーベルトが張った結界を消してみよ。
じいちゃん達がお主の腕前確認してやるぞい。
指導をしながらの結界の処理は思ったよりも時間を食ってしもうたが若い者の成長を見られてなかなか面白かったわい。
さて、アルテアとテレシアちゃんはどうなったかの?
店内に戻るが、店員はマリーナさんのみで二人の姿はない。
「今は支度中なんですよ。もう少しお待ちくださいね」
ふむ、支度中とは、いったい?
そう思っておるとマッチョどもから歓声が上がる。
何事かと視線を追うとそこにはアルテアと赤いドレスのテレシアちゃんじゃ。
手伝いとは、店の手伝いじゃったか。
ワシはてっきり護衛の方かと思っておったわい。
テレシアちゃんのドレスはアルテアに比べると幾分大人しめじゃな。
背中は開いておらぬし谷間も少ししか見えぬ。
じゃが無造作に結ばれておった長い髪を結い上げ薄く化粧を施したテレシアちゃんは十二分に可憐であった。
「お客様にご挨拶を」
アルテアに促され一歩前に出るとお辞儀をしながらご挨拶
「テレシアです。よろしくお願いします」
もう、羞恥心で顔真っ赤じゃな。こうして見ると表情のコロコロ変わる可愛い少女なのじゃな。お辞儀をした時に見えたお客サービスも中々じゃった。
ほっほ、若様などはあまりの変わりっぷりに惚けておるわい。
若いとゆうのは良いもんじゃのぉ。
「アルテア様、やはり私にはこのような事は無理です」
泣きが入っておるがアルテアはジッと見つめる。
「あ、あの……」
「お姉様、と。訂正を求めます」
またそれか。このこだわりは何なのじゃろうな
「アルテアお姉様、私には……」
「皆さん、このテレシアにはこれからここで人間の挙動の勉強をさせますので、協力を求めます」
協力とはなんぞ?
「え?それって……」
「お触り解禁です。テレシアはうまくいなすように。もちろんお客に怪我をさせてはいけませんよ」
湧き上がる酔っ払い。へたり込む少女。
自らアルテアの前に現れたのじゃから自業自得なのじゃがこれはこれさすがにかわいそうじゃな。
「アルテアよそれは流石にかわいそうではないかの?」
「問題ありません。私の妹であればこの程度はスグにこなすようになるでしょう。試しにお父様が最初に試してみられては?」
ん?ワシが?ふむ。へたり込むテレシアちゃんの肩に手を……
む?スルッと逃げられた。もう一度。おや?露骨に避けられた感じはせぬのに触れぬの。
「基礎と身体は既に出来ています。コツを教えていけばこの様に。あとは実践です」
テレシアちゃんを立たせて客の方に送り出すアルテア。
その隙に今度はお尻にチャレンジするワシ。
スルッと
また失敗じゃな。言って聞かせただけでこれか?
感心しておるとアルテアが後ろから近づきおもむろに手を伸ばし
「ひゃんっ!」
テレシアちゃんの乳をわし摑みじゃ。
「素人相手にいい気になって気を抜いてはいけません」
「は、はい!」
戯れる美人姉妹といった感じかの?
おお、客の一部は酒ではなく顔を赤くしておるな?
テレシアちゃんが受け入れられるのもスグじゃろう。頑張れ!
こうして酒場には不定期アルバイトの看板娘が出来、ラジエルを待つ数日が過ぎたのじゃった。
雷電!知っているのか!