酒場の御一行
チンピラ共を店の隅に転がしママさん、マリーナさんから話を聞く。
どうやら良くある地上げとゆうやつじゃな。
こヤツらの雇い主はこの店が欲しい、チンピラのリーダーはマリーナさんを手に入れたい。
両者の利害が噛み合って普通以上に執拗な妨害行為に及んでおるようじゃ。
せめてもの救いは、マリーナさんが欲しいだけあって直接的な暴力にはおよんでおらんことかの。
そんなことになって居れば、今のリーベルトじゃと何をしでかすかわからんとこじゃった。
「さて、そろそろチンピラ共からも話を聞かせてもらうかの」
ワシの提案を受け、リーベルトが術を弱める。
これなら受け答え位は出来るじゃろう。
「クソジジ共、早くこの怪しげな術を解きやがれ!」
「そうだそうだ!兄貴は代官様から正式に任命を受けてこの地区の治安維持をやってんだぞ!その兄貴に逆らうのは代官様に逆らうのと一緒だ!」
「お前ら全員牢屋行きだ、今更謝ってもおせえからな!」
イキナリわめき出したわい、うるさいのぉ。
しかしこの代官の後ろ盾がマリーナさんが戸惑っておった理由じゃな。
まあ、関係ないがの。
ガツ!
「ゲフッ!」
転がったまま喚き散らすチンピラの一人の腹に蹴りが入る。
ぬお、白目をむいてピクピクしておる。
「黙りなさい、不愉快です。あなた方は聞かれた事だけに答えれば良いのです。あまり騒がしいと殴って黙らせますよ?」
アルテアや、そうゆうことは蹴る前に言ってやるのが親切じゃとおもうぞ?
店中の空気が凍ってしもうたではないか。
「一番機、やり過ぎだ。それでは人は簡単に死んでしまう。魔術を使ったほうが早い、私が変わろう。」
おお、さすがラジエルは立ち直りが早い。凍った空気の中すぐさま行動を起こすとはやりおるな。
ここは任せてみるかと思ったのじゃが、
「ラジエル、お待ちなさい。」
アルテアは引かぬか?
こんなことで姉弟喧嘩とか勘弁じゃぞ。
怪訝そうな顔で見るラジエルにアルテアは、
「最初に言ったはずです。私のことはお姉さま、若しくは姉上と呼ぶようにと」
「こんな時にいきなり何を」
「いきなりではありません。最初に言っておいたはずです。さあ、訂正するのです」
「いや、しかし……」
「さあ、お姉さまと」
「うっ、お、おねえ……」
「おね?」
「ね、『姉さん』で勘弁して貰えないだろうか……」
「ふむ、許容範囲内です。認めましょう」
「ただし条件があります。あなたは今、自分のことを『私』と言っていますがあなたの容姿では似合いません。『僕』に変えなさい。それが条件です」
「な、な……」
ラジエルはタジタジじゃな。
アルテアは頑固じゃからさっさと認めた方が早く楽になるぞい。
「くっ!今になってこのような屈辱を、ええい!分かった、それでいい!」
「決まりましたね。では今の条件でもう一度言い直して下さい。外見年齢相応の可愛らしさも忘れてはいけませんよ?」
ラジエル、なんと哀れな。
しかし、この場にはアルテアに逆らってまで他人を庇える者はおらん、受け入れるのじゃ。
「で、では。姉さん、やり過ぎです。それではこいつらを楽に死なせてやる事になります。魔術を使って生まれてきた事を後悔するくらい苦しませてやりたいので、ぼ、僕に任せてくれませんか?」
少し早口で一気に言い切ったラジエルはこれで良いのかとゆうように上目遣いでアルテアを伺う。
一方のアルテアは、嬉しそうな顔で一歩近付くと腕を広げ、
「良く出来ましたねラジエル。さすがは私の弟です。以後その口調で喋るように」
そう言って褒めると、ラジエルの頭を抱きしめる。
今やワシの知るこの街の二大「たゆんたゆん」のソフィアちゃん、マリーナさんと張り合える「ばいんばいん」になったアルテアの胸に顔を埋める形となったラジエルは
「おい、固まっちまったぞ」
「最近気がついたのであるが、こヤツも異性に対して耐性皆無なのである、オリジナルが研究一筋であったのであろうと思われるのである」
このザマじゃな。
八つ当たり的にチンピラの処遇が悪くなったことなど皆スルーじゃ。
おお、ラジエルの頭部から分かりやすいくらいの湯気が上がっておる。
姉弟の仲が良いのは良いことじゃ。
それは良いのじゃが、尋問全く進んでおらんではないか。
もう良い、わしがやる。
「マリーナさんや、こヤツの名前は?」
「はい、ゲーツです」
「ふむ、ではゲーツよ。誰に頼まれた?正直に話すが良いぞ。分かったと思うがワシの子達は少々過激での。公権力など歯牙にもかけておらん、痛い目にあわぬうちにの?」
「けっ!誰が喋るかよ。お前ら絶対に後悔させてやるからな!」
バチン!
頬を張られたチンピラがゴロゴロ転がり、壁に当たって止まる。弟を解放した姉が早くも戻ってきおったのじゃ。
「お父様、面倒です。もう全員ダンジョンにでも埋めてしまいましょう」
「い、幾ら脅迫したって、お、俺は屈しねえぞ!」
「お主ら、真面目に聞き出す気はあるのであるか?」
リーベルトがいらだって来たようじゃ。
そう言えばガンドは……一人手酌で始めてしまいおった。
「もう良い、吾輩自分でやるのである。足先から順に消し炭にして行けばそのうち喋るか死ぬかするのである。灰になれば処分も楽である」
ああ、そんな短気な。アルテアが真似をするからやめてほしいもんじゃ。
結局リーベルトの火炎の魔術で、男のつま先、足の親指の先がなくなる前に雇い主の歓楽街の大物の名と、その後ろ盾に邪術士がいるのではとゆう情報が得られた。
邪術士か……
これは、聞き逃せぬ言葉が出てきてしもうたわい。