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酒場の薬草じいさん

 アルテアとラジエルの大改修からひと月、ワシら三人は集まって飲むことになった。

 一つは制作完了の打ち上げ、もう一つはリーベルトの引退祝いじゃ。


 リーベルトは結局あの後強引に引退してしまいおった。

 自らの能力に衰えの兆しが見えたこと、逆にもう暫くならば現場で行けると確信もしたとの事じゃ。


 しかし、今で衰えの兆しが見えたところなら、生まれてから今までの百十数年間ずっと能力上がりっぱなしじゃったのか。

 平気で恐ろしいことを言いよるわい。


 ともかく、これからは王国魔術師ギルド総長では無く、S級冒険者リーベルト=オルヘックスとゆうわけじゃな。

 この道ではリーベルトが大先輩じゃ、なんだか面白くないのぉ。


 現在は勘を取り戻す為にリハビリ中で、近じかラジエルと共に地下25階のアタックを開始すると聞いたわい。


 ワシは最近やっと本調子に戻ってきたところじゃとゆうに、こやつらほんに元気じゃ。


 因みに打ち上げの場所はリーベルトの馴染みの店らしいのじゃが、あヤツがこの迷宮都市で活動しておったのは90年くらい前じゃったはずじゃ。

 行ったらもう店がなかったとかはかんべんじゃぞ?



 その酒場は、小さな飲食店の並ぶ通りの一画にあった。

 使い込まれた木の扉、少しだけ中が伺える小さな窓。

 沢山のお姉さんがお出迎えしてくれる酒場とかではない様じゃ、残念。


 リーベルトが先頭で扉をくぐる。

「吾輩、昔は毎晩の様に通いつめていたのである」


「どうせおなご目当てじゃろう?若いのぉ」


「純粋に酒を楽しめねぇヤツは人生の半分は損してるんだぜ?」


 ワシとガンドの返しにリーベルトが困った様に答える


「確かに若かったのである。ここのママさんを巡って当時の仲間と争ってパーティーを解散したのである」


「吾輩、彼女と所帯を持つ気で付き合っていたのであるがイキナリ振られたうえに出入り禁止を食らって失意の中迷宮都市を去り、戦場に身を置いたのである」


 なんと、こヤツが突如 人と魔物の戦の最前線に身を投じたのは失恋のショックを癒すためであったか。

 戦場で上級魔法を撒き散らし、人類の勝利に多大な貢献をはたした若き天才魔術師。

 魔物の王をして災厄の魔術師と迄言わしめた者の実状は……


 傷心旅行


 人の領域の果てまで流れて大暴れ


 なんとはた迷惑な、相手が歪みから湧き出る魔物でなければワシでもドン引きしておるところじゃわい。


 そんな昔話しを聞きながら店の中へと入ると女盛りといった年頃のママさんがお出迎えじゃ。


「いらっしゃいませ」


 なんともツヤのある声じゃな。そして「たゆんたゆん」じゃ!


 これアルテアや。そこで張り合わんでも良い。

 この間サラちゃんにもそれをやって「裏切り者ぉ〜!!」とかいわれたばかりじゃろう。

 王都の勤め先で苦労したと言っておったが一体どんな環境だったのやら、困ったもんじゃ。


「エ、エルザ……」


 ん?こちらはこちらでリーベルトが固まっておる。

 ああ、はいはい、思い出の彼女と瓜二つの生き写しとかじゃろ?

 パターンじゃ、パターン。


「あらあら、エルザというと私の曾祖母の名前ですね。このお店の名前でもあるんですよ」

「お爺ちゃんまだ若そうですけど、曾祖母の頃からのお客様ですか?」


「あ、ああ。昔の常連なのである。仕事を引退して迷宮都市に帰ってきたので懐かしいこの店に来てみたのである」

「そうか、エルザのひ孫であるか、これからはチョクチョク寄らせてもらう様になると思うのであるので、宜しく頼むのである」


 本来リーベルトはおなごに対する受け答えが素っ気ないのじゃが、こやつにしては過剰なこの反は、まさかのリーベルト90年ぶりの春到来かの?


 ところが肝心のママさんは少し哀しげな顔をすると


「せっかく楽しみに来て頂いたのに申し訳無いのですが、このお店は近々たたもうと思ってるんですよ」


 ありゃりゃ、春が来る前に撃沈か、あわれな。


「そ、それは経営がうまくいって無いのであるか?それとも他になにかわけでも」


 バン!


 乱暴に開け放たれた扉が大きな音をたてる。


「おい!マリーナ、酒だ、酒持ってこい!」


 なんじゃこいつらは。

 外から入って来たのは四人連れのチンピラ。

 もしやこれは、駄目亭主、若しくは働かないヒモ男のパターンか!


「おい!ジジイども!この店は貸し切りだ、サッサと出て行きな」


 下っ端っぽい若い男がこちらを威嚇してきおった。

 やめたほうが良いと思うのじゃがのぉ。


 今現在のワシらのメンバーは、ワシ、リーベルト、ガンド、アルテア、ラジエルの5名。

 対するチンピラどもは4名。

 それぞれ何某かの得物は持っておるようじゃが、絶望的な戦力差じゃ。

 ここは穏便に帰ってくれたら…


「うるせぇぞ!」


 バキッ!


「おれぁ酒の席を邪魔されるのが何より嫌いなんでい!!」


「てめえら全員叩き出してやる」


 何故かガンドが切れてブン殴ってしもうた。

 これで向こうは全員臨戦態勢じゃな。


「おいコラ、ドワーフ!俺たちが誰だかわかってんだろうな」

「てめえ、死んだぞ、おい!」


 お兄さん方や、そんなに威嚇すると怖い人が出てくるぞい?


「敵対行動を確認しました。速やかに処分します。許可願います」


 ほれみよ、怖い人がやる気満々じゃ。

 ラジエル、アルテアを止めるのじゃ。

 うーむ、店に被害が出ては申し訳ないからのぉ。


 ここはワシの魔術で、って

 ああ、リーベルトに先を越されてしもうた。


 お得意の麻痺の術じゃな。

 リーベルトは便利に使っておるが、修得難度が高い上に人に使うには能力過剰な術じゃ。


 うーむ、ママさん顔が真っ青になっておる。

 迷宮都市で商売しておれば冒険者絡みのいざこざなどで慣れっこでは無いのかの?

 これは事情を聞いてみねばならんかな?


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