閑話 2
私の名はラジエル、大錬金術士一派の最高傑作の二番機にして1000年前の最高位錬金術士のコピーである錬金人形だ。
本来の役目は終わったが姉となった一番機「アルテア」の命によりオヤジ殿の側に侍る事になった。
まずは新しい私の体から紹介しておこう。
見た目は成人前後の人間族。14、15といったところ。
コレは材料が私の元の体から一番機分を調達した残りのため大人モデルで造るには足りなかったらしい。基本一番機優先なのだ。
容姿としては一番機の顔モデルの夫、オヤジ殿の執事の若い頃が元になっている。
当時を知るリーベルト師匠が絵図面を起こしていた。
中々多才な方だ。
オヤジ殿や師匠の若い頃なども候補に挙がったがつかみ合いの喧嘩に発展しそうになり、ガンド親方の提案でこのモデルに落ち着いた。
このモデルは一番機の武術全般の師でもあったそうで、
「師の姿を受け継いだ以上、相応の武は身に付けて貰います」
そう語る一番機に何をさせられるか今から気が気ではない。
構造は以前の一番機と同じく人体の構造を模した内骨格型の表面を装甲で覆ったモノになっている。
装甲が薄くなった為に、強度が大きく低下するかと思われたが杞憂に終わる。
親方と師匠による制作の各種オリハルコン合金と理想的な構造はこのサイズで以前の体と同等の強度を実現している。
私のオリジナルがこれを見たならば卒倒してしまうのではないかと思われる性能だ。
私はこの2人をそれぞれ、親方、師匠、と呼ぶ事に決めた。
また、幾度か、大錬金術士殿を師と呼ぼうとしたがその度に思考に謎のノイズが走った為断念。
一番機から現在対策中のため気にしないようにと言われる。
その時の無表情な一番機の顔が何故か印象深かった。
運動性能は旧一番機のおおよそ3割り増し。
災害級の魔物を単体で抑えたこともある以前の体を圧倒した旧一番機の3割り増し……
過剰な能力の様だが、これからは新型一番機の理不尽からも我が身を守らねばならない事を考えると、まだ不足かもしれない。
次に魔術方面。
以前の私はオリジナルの知識を受け継いではいたがスキルが無いために魔術の行使ができなかった。
それがコア部分の改良により魔術や錬金術の行使が可能となっている。
これは大きな驚きだった。
作り物には魂が宿らず、魂が無ければスキルの行使はできない。
それが1000年前の常識であり、真理であった筈だ。
所が、今の私にはスキルが使える。
つまり今の私には魂と呼べるものが存在すると考えられる。
私のコアに新たに加えられた神剣から抽出したとゆう霊子と呼ばれるもの。
私の知る錬金術とは次元の異なるその世界を見る大錬金術士。
一番機に言われなくともこの方の元で学びたいと思った。
ただ気になるのはスキルは使えるが、スキルそのものを取得したわけでは無いこと。
この辺りは今後の研究課題としようと思っている。
最後に今後のメンテナンスについてだが、一番機の強い希望により基本メンテナンスフリーになったらしい。
製作者の高齢化を危惧しての事らしいが、つまりはこの三人以外にはメンテナンスができないとゆうこと。
1000年で技術が飛躍的に進歩したものと思っていたがこの三人が規格外なだけだった様だ。
因みに、点検できるならその方が良いがしなくても自己修復が可能との事。
意味がわからない。
いや、制作の手伝いをし説明も受けた。頭では理解してもいる。
だが受け入れ難いのだ。
金属の疲労や風化などが止まる所までなら分かる。
何故折れたフレームが再結合し、欠けた外装が再生するのか。
何故この大錬金術士一派が自由に行動出来ているのか。
彼らを外圧から守る事も行動理念に組み込んでおくことにした。
以上が現在把握している私についての事柄だ。
ほぼ向かう所敵なしといった所だが、天敵とも言える一番機の存在がある。
身体スペックはほぼ同じだが武術などの経験の差が大き過ぎて、全くかなう気がしない。
慢心しない様気をつけたいと思う。
さて、先ほどから何度も話に出てきている一番機との関係にも触れておこう。
私を降したかと思うと一方的に弟認定してきた一番機アルテア。
彼女は錬金人形でありながら家族とゆう括りに強い拘りを持っていると思われる。
その事を強く意識させたのが彼女から伝えられた「コラルド家の家訓」だった。
コラルドはオヤジ殿の家名だな。
曰く
一、母は神である
一、姉は絶対者で、妹は天使
一、父は弱い、保護すべし
一、夫は愛せよ
一、妻に逆らうべからず
随分と偏った家訓だった。
そもそも兄と弟は何処に行った?
まあ、これは女性型である一番機に必要な部分だけを掻い摘んだものだろうが。
しかしこの条件の中に一番機の弟として組み込まれた私はどうすれば良いのだろうか。
父と夫はオヤジ殿の事だろうし母や妹はない様なので良いとしよう。
問題は姉だ。
絶対者か……
一番機は実際にこの家訓を盲信している様で、もしも父に危害を加えるものがあれば世界を敵に回してでも殲滅しようとするだろう。
そんな絶対者。
この家訓の中に弟の幸せは無い。
決められた枠組みの中で、自分の地位向上を図るためにはどうすれば良いのか。
私は暫し頭を捻らせるのだった。
次も閑話です