錬金人形の尊厳
悪夢の様な三ヶ月じゃった。
アルテアとラジエル二体の錬金人形の製作、本来ならば数年の期間を使って行われるそれをワシらはたったの三ヶ月で成し遂げたのじゃ。
問題になったのはガンドとリーベルト2人のスケジュールじゃった。
売れっ子鍛冶士のガンドも国の魔術士ギルド総長のリーベルトも何年もの間拘束される訳にはいかんと言いおって、可能な限りの短期間で製作を完了させる事が決まった。
わしらにとっての最短とは、即ち不眠不休の事じゃ。
前回のアルテア製作ではまる一月休まず製作を行ったのじゃが、今回はより上位の素材でしかも二体分。
無茶も良いところじゃった。
ワシらは手始めに設計図面を制作、その後各々下準備に入る。
まずワシがありったけの魔術薬を生産じゃ。
延々魔力が湧き出る魔力薬、一時間の睡眠で三日間働き続ける事が可能な覚醒薬。
飲めば飲む程感覚が冴え渡る感度薬、これらの強い作用を持つ薬を十分な量合成したのじゃ。
更にはそれらの中和剤じゃな。魔力薬は使用期間と同じだけの間、余剰魔力で魔力酔いを起こすし、覚醒薬は依存性が極めて高く禁断症状が出る、感度薬は使いすぎると後遺症で全身に麻痺が起こる。
三ヶ月の薬漬け。高齢のワシらには細心の注意が必要じゃ。
自慢では無いがこれらの中和薬を作れるのはワシくらいのものじゃろうのぉ。
製作者の知識を引き継いでおるラジエルにもできんかった。
このラジエル、結局良い仮りの体が見つからず左右をロープでグルグル巻きにしてある。
見ていてハラハラする状態じゃ。
そして薬の材料じゃが、アルテアの持ち込みじゃ。
ハナっからわしらに無理をさせる気で、これらの薬に関するワシの資料を持ち出し、あらかじめ素材を用意しておったらしい。
ワシが迷宮の工房でこれらの薬を作っている間に2人はガンドの工房で用意出来る部品を製作じゃな。
ガンドとその高弟が不眠不休で作業にあったった。
彼らの工房の他の業務は滞り、落ち着くまで半年かかったそうじゃ。
リーベルトはオリハルコンと合金化させる為の各種魔道金属の準備じゃな。
この世界で最も安定した物質であるオリハルコンと結合できる様に、素材そのものに術式を練り込み、物質でありながら半ば概念化させておく。
アホ程の魔力と極めて繊細な魔力操作が必要な工程じゃぞ。
魔力薬に酔うた状態ではとても無理な作業じゃ。
こうして前準備を終えたワシらは寄生ダンジョンの錬金工房で三ヶ月のカンズメじゃ。
事前に同じ宿の冒険者が新人共の世話をかって出てくれておらねばワシの信用ガタ落ちじゃったわい。
「お、終わったのである……」
最後の工程を終えたリーベルトが崩れ落ちる。
先に作業を終えていたガンドは既に中和薬の水槽に漬けてある。
「ラジエル、さっそくで悪いのじゃがリーベルトも水槽に浮かべておくのじゃ」
本人は終わったつもりじゃろうが、こ奴にはまだ神剣の魔力注入が残っておる。
ご愁傷様じゃ。
「分かりました、オヤジ殿」
ラジエルは、この三ヶ月の間にワシを「オヤジ殿」、リーベルトを「リーベルト師匠」、ガンドを「ガンド親方」と呼ぶ様になった。
それぞれの分野で自分のオリジナルを超える能力を持った者を初めて見たのじゃそうな。
優れた者を敬うのは当然との事じゃ。
ラジエルがリーベルトを運び出した所で締めの作業に掛かる。
先ほどまでリーベルトがラジエルにやっていた体表の人工皮膚の定着作業じゃ。
変わり果てたとはいえアルテアの体は、見た目嫁のコピーじゃ。
他の者の前じゃとちょっとな?
目の前には全身金属光沢のアルテア。
その体に粘液状の素材をかけて行く。
やはりほんの少し量が足りぬな。
「前回はこの量でちょうど良かったのじゃがな……」
ワシがそう呟くとアルテアに叱られる。
「それは前回の張り替えの時にお父様が私の胸部を勝手に小さくしたからです。この事をお母様がお知りになられたなのならば、いったいどうなっていたとお思いですか」
「それに、あの時のお父様の暴挙のせいで、私が勤め先でどれ程肩身の狭い思いをしたか。お父様におかれましては海よりも深く反省して頂きたいと要請致します」
そう、今回の発端であるアルテアの襲撃。他の2人には言えなんだその真の目的は乳じゃ。
実は前回の皮膚張り替えのとき、嫁からの要請で付けた豊満な乳をモデルに忠実な本来のサイズに戻しておいた。
ワシの好きな嫁の乳はあの様なバインバインでは無く、もっとこう、慎ましやかなものなのじゃ。
ワシとて男じゃ、豊満な乳も大好きじゃ。じゃがアルテアに限ってはバインバインの義乳など糞食らえじゃ。ささやかな乳万歳じゃぁ!!
結局その事に不満を覚えたアルテアと冷戦状態になってしもうたがの。
じゃが、ワシは悪う無い。今回も付け替え式のアタッチメントタイプにしたことで可能性を残してある。いつかアルテアの理解を得られる日が来ると良いのぉ。
因みにバインバインを指定した時の嫁の言い分では、子を産んだ後はこの位あった、だそうじゃ。
じゃがワシは知っておる。
その時でも精々がその三分の一位であったことをな。
不足分の人工皮膚を足し、定着の為の魔術を行使する。
こうして2人の犠牲とワシの失意の中、人以上の人型、ワシの天使が再誕したのじゃった。
じゃが、少し削ってもう一回くらい再誕してもええんじゃよ?
これで一章が終了となります
この後閑話を挟み2章開始ですが本作は複数回タイトルを変更したりと中々迷走しております
参考までに感想など頂けると幸いです