大錬金術士のダンジョンアタック
ペチペチとガンドの頬をはたく。
まだ起きぬ。
ペチペチ、ペチペチ。
うーむ、まどろっこしい。
覚醒の魔術を発動する。
「はっ、ここは……って、お前ら何しやがった!」
目を覚ましたガンドはいきなりテンションが高いのじゃ。
まあ仕方あるまい。
あの後ギルドを出たワシらは、その足でガンドの工房に向かい協力を仰いだのじゃ。
しかしこヤツは拒否しよった。
久々にアルテアの様子も見ておきたいとも言っておった。
それでは困るワシらと引かないガンド。
リーベルトと同じ手は通用せなんだ。
今は弟子達が居るから自分は平気なのじゃそうじゃ。
そこで焦ったワシは強行手段に出たのじゃ。
ほっほ、魔術を使って強制連行じゃ。
友人同士で無ければ犯罪じゃな。
とゆうわけで、現在ワシらはダンジョンの地下2階にある安全地帯に居る。
此処までは計画通りじゃ。
「本当にダンジョンの中じゃねえか…一体どうやってオレを此処まで運んで来やがった」
「簡単じゃ、寝たまま歩いて従いてこさせたのじゃ。まあ、夢遊病のようなものじゃ。気にするで無い」
「ガンド、すまぬのである。吾輩止めたであるが…反社会的過ぎて修得から禁じられている術まで使うとは思わなかったのである」
なんじゃなんじゃ、まるでワシばかりが悪人のようでは無いか。
確かにあれは大昔に人攫い共に常用されて葬られた術じゃが、相手は友人なのじゃからせーふじゃ、せーふ……じゃよな?次からは自重したほうがよいかの?それがよいな。
今回だけ。ちょっとだけゴメンなさいじゃ。
しかし今は引けぬ。
「此処まで来ておいてグダグダ言うで無い、覚悟を決めよ、男じゃろう」
「来たんじゃねえ!攫われたんだってんだ!!そもそもオレは普段着の上に丸腰なんだぞ、どうしろってんだ!」
「武器なら上の階で拾った棍棒がお主の腰に下げてあるじゃろう。鎧はリーベルトがその服を魔術で硬くしてしまえば良いのじゃ」
「お前、オレの職業全否定じゃねえか……」
「ガンドが怒るのも無理からぬ事である。しかし、今回だけは目をつむって助けてほしいのである。吾輩だけではゼクセンのお守りは荷が重いのである」
「まあ、そりゃあ分かるけどよぉ」
「このバカ者の面倒を見ながらアルテアから逃げつつダンジョンに潜る、考えただけでも胃が……」
ひどい言われようじゃな。
しかしガンド同行を引き出す為に今は我慢じゃ。
「そもそも逃げるつったて何処まで潜る気だ?生半可な階層じゃあアルテアからは逃げられねえぞ?それに見たところ食料なんかもねえみたいだし」
「其れはもう吾輩の取って置きを使うしかないと思っているのである」
「ズバリ目的地は昔吾輩がこのダンジョンの深層にアタックするため、地下24階の隠し部屋に作った物資の集積場である」
「当時の仲間と割れてアタックは断念したが物資はまだ無事なはずである。吾輩の後はこの100年近く地下24階にたどり着いた者は居ないと聞いているし、物資は保存魔術で保護してあるのである。」
「そこで2、3日時間を潰せばこのバカ者も納得するのではないかと思っているのである。吾輩も最終的にはアルテアに合わねばならぬのであるしな」
「地下24階まではどうすんだ、お前さんはともかくオレやゼクセンには荷が重すぎる」
「其れには転移ゲートを使うのである。一度攻略した階までなら一瞬で移動できる扉がこの先にあるのである。起動に魔力を食うのであるがゼクセンでもギリギリ可能なはずである」
おお、ワシ何も言ってないのに計画が出来上がったわい。やはりこヤツらは頼りになるのぅ。
ワシほくほくじゃ。
「とゆうわけじゃ。其れではサクッと移動するぞい」
ワシが行動開始を告げるとガンドがボソッと言いおった。
「何が『とゆうわけ』だ、絶対今回もノープランだったろう」
甘いわい、今回はリーベルトに任せるとゆう完璧な計画があったのじゃ。
正に「計算通り!」なのじゃ。
ワシは返答代わりにニヤリと口角を上げドヤ顔をきめてやったわい
ガンドの悔しそうな顔を楽しみにな。
するとなぜか後ろのリーベルトに頭をはたかれてしもうた。
解せぬ。
転移ゲートは無事起動した。
原理も理解出来たがモヤモヤして気持ち悪いわい。
本来の世界のルールから半歩ズレたダンジョン限定のルールの中でのみ効果を発揮する術、不可解な術式では無いが不愉快な術式じゃな。ワシは嫌いじゃ。
錬金術はルールに挑んでこそじゃからの。
ワシが魔力を込めリーベルトが術式を起動する。
何時もの逆じゃな、リーベルトはなぜか少し楽しそうじゃ。
久々に感じる魔力がごっそりと抜け落ちたような感覚、わしゃヘトヘトじゃ、リーベルトさんや目的地はまだかのぅ。