大錬金術士の錬金人形
アルテアが来る。
アルテアが……
ぬおおおおお!
ピンチじゃ、我が人生最大級のピンチなのじゃ!!
一刻も早く何処かに隠れねばならん。
地上の光亭ではダメじゃ、何処から情報が漏れるか分からぬ。
ガンドの処……あヤツはむしろアルテアに協力しそうじゃ。
それしか無いか。
うむ、それしか無い。
ダンジョンじゃ!ダンジョンの中に逃げ込んでやり過ごせばよい。
幸いにも此処にはリーベルトが居る。
こヤツと一緒ならばダンジョンのモンスターも何するものぞ。
後の問題はダンジョンのトラップじゃが、これはガンドが居ればなんとかなる気がするのぅ。
人工物なら何でもござれのドワーフなガンド、壁役にも使えそうな気がするぞい。
経験の豊富な最上位冒険者リーベルト、後衛の魔術師で火力ピカイチ。
それにワシ。
完璧な布陣じゃ。
なあに、ワシとてこの迷宮都市の冒険者、ダンジョンの事なら何時もの駆け出し共から何度も話を聞いておる。
何とかならないことも無いはずじゃ。
「リーベルト、ダンジョンに行くぞい。ダンジョンに逃げ込むのじゃ!」
「お前はいきなり何を言い出すのであるか。今はアルテアの話である」
「そのアルテアをやり過ごす為にダンジョンへ入ろうとゆうのじゃ」
いまいち反応の悪いリーベルトに分からせる為に少々策を講じる。
「聞けい!アルテアがワシの元に来るのであれば目的は一つじゃ!」
「装甲材の変更、これしかあるまい。王都におった頃から度々催促されて居った。」
「思い出すのじゃ、あの辛く厳しいアルテア製作の日々を!」
これは嘘では無い、チョットだけ本当では無いだけじゃ。
本当の本当など恥ずかしゅうて話せるものでは無いのじゃ。
「アルテアに見つかれば、またあの時の二の舞いじゃぞ」
「し、しかしそれはお前だけの話では無いかと思うのである」
目に見えて動揺するリーベルト、もう一押しじゃ。
ワシは取って置きの「事実」を述べる
「ワシはアルテアに捕まったら躊躇なく口を割るぞ、『これにはリーベルトの協力が不可欠じゃ』とな」
「お、お前と言うヤツはぁ!吾輩を巻き込む気満々であるか!」
許せ友よ、此処に来た時点でお主も当事者なのじゃ。
そうして、ワシとリーベルトが言い争っておると扉のドアが軋む音が聞こえる。
ギシッ、ガキッ
このぱたーんはもしや!!
バタン!
勢いよく開け放たれて、ドアのヒンジが軋みを上げる。
「お父様、私の尊厳を取り戻しに参りました。お覚悟を」
で、出おった!
腰まで伸びる金属製の銀髪。
見るものに冷たい印象を与える切れ長の目に整った顔立ち。
きゅっ、きゅっ、ぼん、の胴体。
お仕着せ姿で今は見えぬが細く長い脚。
身長は女性の平均よりも少し高い。
ワシのような目利きになると、ほんのり後光が差して見えもする。
我が嫁の身体に我が家の女中頭の顔を持つ錬金人形。
元々は女中頭が自分の子育てに手が回らぬで子を作らぬとゆうから製作を開始したため、彼女の顔をモデルに使うたのじゃ。
一から作るのは面倒くさかったし、ワシが知る中で一番の美形じゃったからのぅ。
身体が嫁なのはワシが嫁だけに夢中で他の女人をしら・・ええい!言わせるな、はずかしいではないか!
最も、本人達に製作が知れた時点で最早別物と言うべき仕様変更を要求されてのぅ、子守り用錬金人形が大量破壊用錬金人形になってしもうたのじゃ。
外見もモデルによる自己申告での「一番輝いていた頃仕様」に変えられておる。
ワシにとって逆らえない相手のつーとっぷからの要請じゃ、是と言わざるを得なかったのじゃ。
結果、わし一人の手には負えんようになってガントに泣きつき、リーベルトも巻き込んで何とか完成させたのじゃが、その製作の過酷さはそれを匂わせた時のリーベルトの反応で知れようとゆうものじゃ。
何せ核には神剣からできた光の余りを流用しておるしな。
アレの加工は骨が折れるのじゃ。
話が逸れてしもうたが、現れたのはまごう事なきアルテアであった。
「おや、確かに気配があった筈ですが姿が見当たりませんね」
「流石はお父様、私の知らない新技術ですか。しかし逃しはしません」
そう呟くと踵を返し部屋を後にするアルテア。
あ、危なかったのじゃ。
ワシらは咄嗟に貼った術を解く、リーベルトは気配消しと姿消しの二重の結界を、ワシは消音じゃな。
くっくっ、さしものアルテアもワシらの三重の結界は見破れなんだようじゃな。
新しい技術では無い、既存技術の応用じゃ。
まだまだ応用力が足らんわい。
しかしこうしてはおれん。
一刻も早くダンジョンへ避難せねばならん。
アルテアに先を越される前にガンドの身柄を確保してダンジョンへゴーじゃ。