大錬金術士の長寿の秘訣
今日も日課の薬草採集を終え、駆け出し達 に魔力の操作を教えておる。
日も高くなり、ポカポカ陽気で気持ちええ。
たらいの中でぷかぷか浮ぶ薬草を見ていると眠くなってきたのぅ。
ワシが飽きて来たんで、そろそろお開きにするかと思い出した頃、数騎の馬とその共の者らしき一行が真っ直ぐこちらに向かって来たのじゃ。
こんな野っ原で迷子でもあるまいし、ワシらになんぞ用でもあるのかのぅ。
不思議に思い見つめていると、段々近づいて来た一行の中に一人の老人姿を見つけたのじゃ。
そしてワシは目を疑った。
何故なら、やってきた老人は旧友リーベルトだったからじゃ。
「ゼクセン、久しいのである。」
やはりリーベルトであった。
こヤツはワシの学院時代の同窓生で、ボンボンの癖に冒険者になり、英雄と呼ばれるだけの功績を上げた同期一番の出世頭じゃ。
学院を首席で卒業して冒険者になるなど前代未聞じゃったがこヤツはやり遂げた。
ワシが冒険者を始めたのもこヤツの影響かも知れぬな。
まあ、そんな事は置いておいてワシが目を疑った理由じゃが、此処にこのリーベルトが居るのはまあよい。
問題はこヤツの頭頂部じゃ。
最後に会った時にはまだ十分な量を誇っていた長い友達は今や両サイドにその名残を残すのみとなっておる。
そして、不毛の荒野と成り果てた嘗ての理想郷は、その頂に降り注ぐ太陽の恵みを拒否するかの如く全力で跳ね返しワシの目を刺し刺激する。
あゝ、時の流れのなんと残酷なことよ。
やたらと良く光る頭の持ち主が近づいて来たと思ったら変わり果てた友人の姿であったのだ。
これが驚かずにおれようか。
うむ、ショックの余り少し詩的になってしもうたわい。
しかし、実際のところこれは良く無い兆候じゃのう、ワシもこヤツも100を超えておる。
にもかかわらず未だに足腰がしっかりしておるのは昔 飲んだ薬のお陰じゃ。
ワシの場合は実験の一環じゃったが、こヤツに飲ませたのは本気で調合した長寿の霊薬じゃった。
長寿の霊薬を無色透明、無味無臭に調合し、水と偽って飲ませたのじゃが全く気が付かんかったわい。
こヤツは育ちが良いだけあってやたらと食に煩い。
そんなこヤツの舌を騙せれば嫁の食事に混ぜても気がつくまいとゆう、このワシの一世一代の謀略であったのじゃ。
まあ、結果としては嫁は手をつける前に気が付き、ワシは過去最長時間のお説教を食らったのじゃがな。
目を見た瞬間気がついたそうじゃ。
そんな訳で、リーベルト=オルヘックスは長寿じゃ、にも関わらず毛が亡くなっておる。
わしらも自然な時の流れに合流してきたのじゃろう。
じゃがすまん我が友よ、ワシはもう力にはなれん。
人は自然のままに生きるのが一番じゃ
ワシは嫁からそう教わったのじゃわい。
申し訳ないがはっきりと宣言したのじゃ
「リーベルト、すまんのじゃが毛の薬は切らしておるのじゃよ」
聡明なこヤツならこれで全てを理解してくれるじゃろう。
しかし要件は「毛」関連では無かったらしい。
だが帰り道は、その件に関しての説教たいむになってしもうた。
馬上から延々説教されるのは中々応えたわい。
まあ、こヤツはワシに説教する人らんきんぐ三位、いや今は暫定一位じゃったか。
とにかく昔から説教好きじゃったから、こんなもんかも知れんし、少し懐かしかったわい。
延々続く説教を乗り越えやっとの思いで、西門支部 にたどり着いたのじゃ。
普段の三倍は疲れたわい。
入り口をくぐり中に入った所で周囲が騒めく。
リーベルトのせいじゃな、こヤツほどの冒険者には滅多に会えるものでは無いからのぅ。
サインとかねだられちゃう?
うらやましくなんか無いんじゃからな!
ワシらが薬草採集の報告を終えると待っていたリーベルトに呼ばれる。
「奥の商談室を借りたのである。内密の話が在るので付いてこい」
特に用事も無いので素直に付いて行ったのじゃ。
「こんな所まで来るとはお主も騰々引退したかのぅ」
「吾輩、人を育てるのは苦手であるから、お前のようにあっさりと隠居するのはむつかしいのである」
こヤツは自分ができるレベルを他人にも求めるからのぅ、そりゃお主と同じレベルで仕事のできるものなどそうはおらんじゃろう。
「とにかく本題に入らせて貰うのである。先に言ったように緊急事態なのである」
「アルテアが此処に向かっておるのである」
……
「なんじゃと!」
不味いのじゃ、これは非常に不味いのじゃ。
ワシとて製作者として、また父としてアルテアの事は好ましく思っておる。
じゃが、長らくワシとアルテアの仲は緊張状態にある。
ワシがアルテアからある物を奪ってしまったことが原因じゃ。
取り戻したいアルテアと、もたせたく無いワシ。
ワシらの意見は平行線のまま今に至り、アルテアに戻ってくる時間が無いことで有耶無耶にしたつもりじゃったが。
見つかればワシでは逃げられん。
どうすれば、どうすればよいのじゃ〜!
あっ、ワシ胃が痛いかも……