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有名工房の神剣鍛冶師

 人間の旧友が訪ねてきた。

 寿命の短い人間で友と呼べるのはこいつともう一人、俺と同じゼクセン被害者の会(会員2名)会員の魔術師だけだ


 友と言っても顔を合わせた回数は数える程しかないし、昔はこいつが嫌いで仕方なかった。


 顔をあわせるた後は毎回もう一人の人間の友と夜通しこいつの悪口を言いながら飲み明かしたものだ。



 そもそもこいつ、ゼクセンと初めて出会ったのは神剣の再生という俺の鍛冶師人生一世一代の大仕事と思って受けた仕事での事だった。


 その仕事は俺たちの前にも沢山の大御所と呼ばれる様な腕利き達が挑んで達成できなかった難事で、いよいよ時間の猶予も無くなった時点で当時新鋭の若手を集めて最後の賭けといった状態だった。


 まあ、若手と言っても人間2人はオッさんだったし、俺だって120代のオッさん一歩手前だったけどな。


 だが、神剣を見た瞬間俺は悟った、これは違う、俺たち地上に生きる定命の者がどうこう出来る代物では無いと。


 他の二人も思い描いていた神剣とは違うものだって事には気がついた様だった。


 魔術師リーベルト=オルヘックスはゆっくりと首を横に振ったが、錬金術師ゼクセンは神剣片手にまるで講義でもする様に語り始めた。


 神剣の定義、神剣の成り立ち、その種類。

 神の使うための剣、神の鍛えた人の為の剣、神から授る人が鍛えた剣。


 その話を聞きながら俺はどんどん気分が悪くなって行った。

 話の内容じゃ無い。

 話す人間と、この錬金術師と同じ空間にいたくなかった。


 見た目は普通の中年の男だが、淡々と語るその男には、表情が全くなかった。

 人間らしさを何処かに忘れてきたかの様だった。

 人間そっくりに作られたゴーレムが人の真似をして話しているのではと疑った。

 ただそこに有るだけの精霊の類いの方がまだそれらしく見えるくらいだ。


 だから俺は黙って下を向いていた、目を合わせたらブン殴る自信があったからだ。


 しかし話の内容からは意識を離せなかった。この男は俺の知らない剣の真理について、さも当然の様に語って行く。


 神が創ったはずのこの世ならざる剣、その製造工程をさも見てきたかの様に語るのだ。

 剣に対する熱意も情熱もなさそうな奴が俺より遥かに深く剣を理解し、語る。


 こいつは、嫌いだ。

 そう思った。


 ゼクセンは暫くすると話をやめ魔術師のリーベルトに指示を出し始める。


 ゼクセンが複雑怪奇な術を掛けリーベルトが魔力を込める。

 また術を掛け魔力を。

 リーベルトの魔力が切れると取り出した薬を飲ませ、また魔力を込めさせる。

 幾度も繰り返しリーベルトの目が死んだ魚の様になった頃には金属製で有ったはずの神剣は丸い光の塊になっていた。


 曰く、この光の塊が地上の理の中で人が干渉出来る最も根源に近いものだそうだ。


 光の塊を手にしてゼクセンが再び語りだす。


「光の塊にまで分解した以上もう元の神の為の剣には戻せない」

「製造過程の説明をする為に分解して見ただけで、此処からどうするかのプランはない」


 ・・・・・・。


 おい、マジかよ。


 こいつ何考えてんだよ、とんでもない知識と技術を持った人間の枠からはみ出してる天才の類かと思ったら、とんでもない知識と技術を持った人間の枠からはみ出してるバカだった。


 神の為の剣って事はもう世界の至宝とかってレベルじゃない。

 崇め奉って、終末のその日まで永久保存って代物だ。

 それをノープランで戻せないとこまで分解しちまってなんとも思って無さそうだ。


 バレたら死罪ってゆうか、神剣が無ければ世界が危ない状態だったのにだ。


 そう思った。


 気持ち悪さが段々イライラに変わってきた。



 でだ、


 バカが光の塊の性質について語りだして、


「これは魔素を構成する霊子が固定された状態で‥」うんぬん

 だからなんなんだ。

「魔素を組み替えるには錬金術が‥」かんぬん

 結論を言え結論を!

「魔術や、鍛冶スキルでは権能が低くて加工が‥」


 ああ?!


 今なんつった!


 鍛冶の何が低いって?なんの加工が出来ないだと?


 ノープランのバカが鍛冶師舐めてんのか!!


「神剣ダメにしやがっってこのバカが!しかも鍛冶師バカにしやがって俺の腕見て驚きやがれ!錬金術なら、この塊なんとかなるっつたよなぁ?吐いたツバ飲むんじゃねえぞ、出来るんなら早くやって見せろ、おら!」


 ってぶち切れちまったわけよ。


 そのあとの事は思い出したくもない。


 啖呵切っちまった以上後には引けなかったし、人生最高の修羅場さ。


 二人ともこき使ってやった。


 バカは光の塊からちっこい破片を切り出すとぶっ倒れちまった。


 魔術師は薬を浴びる様に飲みながら魔力を込める。

 こいつは、結局10日近く薬漬けで魔力を込めてた。


 そして俺は三日三晩ひたすら槌を振るい光を核に神剣を造り、バカが意識を取り戻したのと入れ替わりで3日寝込んだんだ。




 その後も、どうしても断れない厄介な仕事の度にこの2人と一緒になって、気がついたら友と呼べる間柄になってたな。



 嫌いだったんじゃないかって?


 だったんだがな、ある意味戦友みたいなもんになっちまたら仕方無えだろう、神剣どころじゃないとんでもないもんだって創ったんだぜ?


 もう一つはこいつが結婚してから急激に人間っぽくなって行ったこと。


 あとは、ある時こいつが大量の素材を抱えて転がり込んできて言ったんだ、

「私にはもう無理なんだ、お願いだから手伝って‥、いや私が手伝うからコレを完成させてください、お願いします」


 あの無表情バカが、必死の顔でお願いしますときたもんだ。


 理由を聞けば早くしないと嫁さんに怒られるだとさ。


 思わず大笑いしちまったさ。


 わだかまりはその時に完全に消えたね。






「親方!大変です!!じいさんぶっ倒れちまった!!」

 慌てた様子で弟子が作業場に飛び込んでくる。


 ゼクセンは俺の仕事の手が開くまでの少しの間で熱にやられたようだ。


 昔ならこれくらいのことで倒れたりはしなかったが、人間で120歳近くになれば生きてる方が不思議なくらいか‥


 こいつとは後どれくらいバカが出来るか。

 リーベルトも呼んでもう一度位三人で飲むのもいいかも知れない。

 弟子に介抱される旧友を見ながらしんみり思う。


 今のこいつには常に監視がついてる、直ぐにでも専属の回復魔術の使い手が駆けつけてくるだろうから大事にはならないだろう。


 だがまあ、これからは少しだけ年寄りをいたわってやるかな。




 ゼクセンはその後すごい勢いで駆けつけてきた細っこい女の回復魔術でことなきを得た。

 大勢の監視、護衛が詰めかけてきて工房の中が狭くなっちまったぜ。


 顔を会わせるわけにはいかないんだろうとそいつらを追い出し。

 ペチペチと頬を叩いてゼクセンの意識を目覚めさせる。


「うぉ、近いわい!いったいどうしたとゆうのじゃ」


 思いっきり顔を押しのけられた。


「どうしたじゃねえ、お前がいつまでも目を覚まさんからじゃねえか」


 どうやら少し居眠りしたくらいに思っているみたいだな。


 ワザワザ老いを意識させることもないか。


「で、今日は何の用だ?」


 少し素っ気なく聞いてみると、どうやらちょっとした修理の依頼の様だ。


 だがこいつが絡んだ仕事が簡単に終わった試しはねえ。


 ほら見ろ、杖に状態維持の術が掛かってやがる。

 しかもかなり年季の入った奴だ。

 強力な錬金術師のこいつが使い続けるとほとんどの物は無意識の術で変質しちまう。

 其れを防ぐためだろうがこれだと普通の職人じゃあ手も足も出ないだろう。



 まあいい、今日は徹夜だバッチリ仕上げてやろうじゃねえか。

記憶は美化されるもの‥

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