有名工房の大錬金術士
今日もいつもの薬草採集を終えて西門支部を出る。
普段であれば市場を冷やかし、気に入ったものがあれば買って帰るのじゃが今日はちと目的があって北地区にある鍛冶屋に向うておる。
そこの親方は気難しい事で有名で、気に入った仕事しかせぬと有名なのじゃがまあ問題なかろう。
何と言っても80年からの付き合いじゃからのぅ。
様々な種類の工房が建ち並ぶ北区の工房街、その中程に目的の鍛冶屋がある。
ここはダンジョンを有する迷宮都市だけあって武器や具足の工房が多いのじゃがその中で有ってもその一画はその割合が飛び抜けておる。
優秀すぎる親方に周辺国中から弟子入り志願が殺到した結果工房の許容量がパンク、高弟達が周辺に工房を起こす事で人を分散させた結果じゃそうじゃ。
今では大陸屈指の鍛冶師一門として名が知れ渡っておるわい。
しかし、余りにも鍛冶屋が密集しすぎではないかのぅ。
この一画だけ他の場所より明らかに蒸し暑いぞい。
ワシのような年寄りが長居をすると、倒れてしまいそうじゃわい。
ん?んん?もしじゃ、もしも今ワシが倒れたとする。
知り合いの工房の前じゃ、当然介抱されて宿に運ばれる筈じゃ。
すると、身寄りのない弱ったじじいが出来上がる。
するとどうなる?
あの優しい宿屋の看板娘サラちゃんが放って置くわけがないのではないかの?
当然ワシの事を心配してくれる筈じゃ。
あまつさえ、あまつさえじゃ、心配のあまり一晩付きっ切りで看病などという夢のようなことが起こる可能性も無きにしも非ずじゃ!!
そして中々目覚めぬワシに水を飲ます為、サラちゃんは自分の口に水を含み‥
うむ、全然ダメじゃな。
重大な欠点に気がついてしもうたわい。
サラちゃんは、憂い顏も美しいが笑顔の方が何倍も可愛いのじゃ。
あの笑顔を曇らせるなどトンデモナイ事をするとこじゃったわい。
やめじゃやめじゃ。
サッサと用事を済ませて、笑顔のサラちゃんに会いに帰るのじゃ。
工房の中に入ると、金属を叩く槌の音とさらなる熱気が向かってくる。
ワシも素材をいじる為に槌を握る事は有ったが、この環境は無理じゃな。
やはり本職の職人とは大したものじゃ。
槌の音に負けぬよう大きな声で親方を呼ぶ。
「親方ぁ、おるかぁ?ワシじゃぁ」
ワシが呼ぶと弟子らしき男が出てきたのでワシの訪問を伝えて貰う。
作業中じゃからキリの良いトコまで少し待てとの事じゃ。
椅子を出してくれたから座って待つとしようかのぉ。
「おい!ゼクセン!しっかりしろ!!おい」
むぅ、うるさいのう。
一体なんじゃ。
ビシ!ビシ!
なぬぅ、ほ、頬をはたかれたぞ。
いったい何事じゃ。
気がつくと目の前に髭もじゃの親方の顔が。
「うぉ、近いわい!いったいどうしたとゆうのじゃ」
「どうしたじゃねえ、お前がいつまでも目を覚まさんからじゃねえか」
うむ、どうやら待つ間に寝入ってしまった様じゃ、ワシもそろそろ歳じゃからのぅ、疲れておったのやもしれん。
しかし、起こす為ならなにも頬をはたかんでもよかろうに、職人は手が早いとは本当の事なんじゃのぅ
先ほどの弟子の男に水をもらい親方の方を向く。
この男が大陸屈指の鍛冶師と呼ばれるドワーフのガンドじゃ。
出会った頃には100歳を超えておったから今は200歳といったところかのう。
年齢だけならワシよりもジジイじゃ。
もっとも、ドワーフは長命種じゃから今が職人として一番脂の乗った時期らしいがの。
ワシらが知り合ったのはある依頼がキッカケじゃな。
神代より伝わる神剣の力を再び取り戻す為の一大ぷろじぇくとのメンバーとして顔を合わせたのが最初じゃ。
依頼自体は散々じゃったがのぅ。
そもそも、神剣にも種類があってのぉ、神の使うための剣、神の鍛えた人の為の剣、神から授る人が鍛えた剣、これら皆神剣じゃ。
依頼主は二番目の「神が人の為に鍛えた剣」しか頭になかった様じゃが、実際には神の使う剣であったのじゃ。
正真正銘の世界の宝じゃな。神殿にでも飾っておば、大繁盛間違いなしじゃ。
人の為の剣は弱き人が大きな敵を討つために、剣自体が大きな力を秘めておるが、
神の使う剣は只々丈夫で力の許容量が大きいだけのものじゃった。
これを力を失ったものと勘違いした依頼主がワシらを召集した訳じゃが、既にセッパ詰まった状態であった様で、
「何としても、力を取り戻せ!成功以外の報告は聞かん!」
と、こう来たもんじゃ。
あれは間違いなく、「成功か死か、どちらか選べ」そおゆう目じゃったわい。
ワシともう一人の魔術師は、其々のあぷろーちで神剣をいじり倒したのじゃが一向に拉致があかんでのぅ、諦めかけたその時じゃ!
其れまで黙って見ていたドワーフの鍛冶師ガンド、こやつがいきなり立ち上がり宣言したのじゃ。
「その神剣はもうどうしようもねぇ!この俺が人の鍛えた神剣って奴をつくってやろうじゃねえか!お前ら手伝え。」
アレは、カッコよかったわい。
結局ガンドはワシらのサポートの元最高の剣を打ち、ワシともう一人の魔術師は連日の徹夜作業のハイテンションもあって、その剣に有らん限りの後付け能力を盛って事なきを得たのじゃ。
懐かしいのぉ、若い頃にしかない情熱とゆうやつかのぉ
「で、今日は何の用だ?」
せっかく懐かしい思い出の余韻をぶち壊しおって、空気を読まんか、空気を。
まあ、本来の用事を済ますかのう。
「今日は少し直してもらいたい物があってな」
ワシは愛用のヒノキの棒を取り出すとその先を見せる。
「最近先っぽが擦り切れて短くなってきている気がするのじゃ、何とかしてくれんかのぉ」
何故か無言のガンド。
おもむろに立ち上がるとヒノキの棒を受け取り作業場へ戻っていきおった。
暫くすると、またまた弟子の男がやってきて言う事には、朝までには仕上げるから泊まって行けとゆう事らしい。
今日は疲れておる様だしあの棒無しで歩くのも疲れる、お言葉に甘えるとするかのぉ
翌朝仕上がった棒の先には、以前ワシが開発した自己修復機能付の金属で作られた滑り止めが取り付けられておった。
礼を言うと一度宿へと戻る。
ヒノキの棒の具合は最高じゃった。
カツ、カツッと金属の音も心地よい。
相変わらず良い仕事をしおるわい。
朝食の時間までには帰り着けたのじゃが‥
なんかサラちゃんの態度が冷たいのじゃ。
別に他の宿に浮気した訳じゃないんじゃよ?
昔馴染みの家に泊まってきただけなんじゃ〜
なぜじゃぁぁ!!