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ウィッチネット  作者: 寝無為
6/8

6話

 次の日の日曜日、私は朝から知佳ちゃんと一緒に近くのお店にお願いしてポスターを貼らせてもらった。コピーした「迷子の犬をさがしています」のポスターは5枚。私たちがそれを見せるとみんな「早く見つかるといいね」って言ってくれた。


 お昼になって、私はひとりで電車に乗り、家から少し離れたところにある小さな駅に来た。切符が自動改札の機械に吸い込まれる。私は改札口を出て、すぐ目の前にあるベンチに座った。

 昨日ウィッチネットで、先輩魔女との待ち合わせの場所を決めるときに、私の都合のいい場所を選ぶように言われたのだ。

 家の近所の駅だと住所が大体わかっちゃうから、わざと少し離れた駅をどこか選ぶようにということだったので、適当に選んだのがこの駅だった。


 私はベンチに座りながら、内心では胸がドキドキと高鳴るのを抑えられなかった。初めて私以外の魔女と顔を合わせるのだ。どんな人だろう。優しい人なのはわかっているけれど。歳は近いだろうか? 住んでる場所は近所だろうか? そんなことをずっと考えていると、待ち合わせの時刻になっていた。私は昨日言われた通り、頭のチャンネルを切り換える。


『こんにちは。今待ち合わせ場所に来てる?』

 時間ぴったりに、ウィッチネットを通して先輩が話しかけてくる。私はきょろきょろと周りを見ながら返事をする。

『はい。今ベンチに座ってます』

 いつの間にか周りには誰一人いなくなっていた。どういうわけか駅員さえも姿が見えない。

『了解』

 私があちこちに視線を向けていると、駅の入り口からこちらに歩いてくる人がいた。歳は高校生くらいだろうか? 思ったよりも若い。そして、なんというか、黒い人だった。他に言いようがないのかと聞かれると困るけど、それが第一印象だった。黒い髪に黒いワンピース、その上に羽織った上着も黒。靴も黒ならソックスまで黒。つまり黒ずくめな人だった。

 といっても別に不自然なかっこうではなかったけれど。暑そうではあった。そして、肩からバッグを下げて、片手になにか木の棒を持っていた。

 その人は私にまっすぐ近づいてくると、「はじめまして」と手の棒を軽く持ち上げてニッコリ微笑んだ。


 私たちは近くの公園に来ていた。静かな公園だった。日曜の昼だというのに、遊んでいる子供も見かけない。

 ベンチに座っていると、近くの自動販売機でジュースを買ってきた彼女が私に一つ渡してくれた。隣に座った彼女からは、ちょっと嗅いだことのないような不思議な匂いがした。

「えっと、お金は……」

「いいよ。ジュースくらい大丈夫」

 パタパタと手を振ってこたえる。私は頭を下げてお礼を言った。

「ありがとうございます」

 缶ジュースのタブを持ち上げるとカシュッと音がした。冷たい。知らないうちに喉が渇いていたのか、最初の一口で3分の1くらい一気に飲んでしまった。

「私の名前は白崎雪恵」

 彼女はそう言った。

「こんな黒ばっかりのかっこうしてるけど、名前は白崎雪恵なの」

 こちらの考えを先回りするように雪恵さんは続ける。きっとそこはよく突っ込まれるポイントなのだろう。

「えっと矢口真理です」

 私も自己紹介してみる。といっても名前以外にいうことはないけど。でも雪恵さんは、「いい名前だね」って言ってくれた。お世辞なのはわかってるけど嬉しい。

「あのう……、雪恵さんは高校生ですか?」

 気になってたことを聞いてみる。

「うん、そうだよ。高校1年生」

 ということは、ウィッチネットでよくテストのことを気にしてた人かな? だとしたら、実物はウィッチネットとは少しイメージが違っていた。

 ウィッチネットではもう少し元気よさそうな人だと思った。陸上部とか、テニス部とかに入ってそうなイメージ。

 雪恵さんが元気なさそうというわけではないけど、どちらかというとおとなしそうな感じの人だった。深窓の令嬢? そんな感じだ。部活でいうなら、文芸部とか、美術部とか。


 雪恵さんが缶ジュースを口につけて持ち上げた。あおるようにして飲む。白い喉がコクンと動いた。

 キレイな人だなあと思った。そう思うとなんだか嬉しくなって思わず「えへへ」と笑ってしまった。

「どうしたの?」

 雪恵さんが首をかしげる。私は正直に、「雪恵さんがキレイだから嬉しくなって」と答えた。

「そ、そう。ありがとう。本当にキレイに見える?」

 ちょっと戸惑うように聞き返された。

「ハイ、とっても」

 答えると、雪恵さんは少し赤くなって、照れ隠しのように私の頭をそっと撫でた。

「真理ちゃんはその……、目の前の人がキレイだと嬉しくなるの?」

「わかりません。でも雪恵さんは魔女仲間ですから」

「そうだね。確かに魔女の仲間ね」

 雪恵さんはコホンと軽く咳払いすると、手の中でクルンと木の棒を回した。


「それって何かの道具なんですか?」

 私は雪恵さんのもっている棒に人差し指を向けて尋ねた。

「そうよ、魔女の杖なの」

「これがそうなんですか? ちょっと思ってたのと違います」

 私が想像する魔女の杖というのはもっと曲がりくねっていて、ゴツゴツした感じのものだ。一見してわかるマガマガしい雰囲気、そういった感じのやつだね。でも雪恵さんが持っているのは割とまっすぐで細くてストンとした感じの杖。あまり怖くない。いや、ちっとも怖くない。

「そうね。言いたいことはわかるわ」

 雪恵さんはうんうんと頷く。

「私もね、できればもっと大きくて曲がっていて、上のほうはぐるぐる渦を巻いてるような杖がよかったんだけど」

 そうそう。そういうやつ。私の想像したのとそっくりだ。

「でもそういうのは重いし、人目につくから」

「た、たしかに」

 やっぱり21世紀の魔女は目立たないことが第一みたい。魔女としてのイゲンとかハッタリみたいなものは関係ないのだ。ちょっと寂しい。


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