3話
私がウィッチネットに初めてつながったのは、そんなに昔のことじゃない。割と最近のこと。せいかくには3カ月前。
頭の中に声が聞こえてきたときは、びっくりして思わず悲鳴をあげてしまった。ただでさえ魔女だという人に言えない秘密があるのに、いよいよ危ない人になっちゃったかと思った。
でも突然の私の悲鳴でウィッチネットのみんなも驚いたらしい。それからみんなが一生懸命私のことをなだめてくれて、(『怖くないよー、大丈夫だからねー』とかそんな感じだったけど)私はなんとか落ち着いて話を聞くことができた。
ウィッチネットというのは簡単に言うとラジオみたいなものらしい。ある程度の力のある魔女には受信と送信ができるアンテナが立つ。あとは意識してチャンネルを切り替えればみんなとつながって会話ができる。よくわからないけどそういうものらしい。
私はこのウィッチネットを通して、魔女の先輩たちから魔女の世界のことを教わった。ずっと昔から似たような力を持つ者がいたということ。そしてなぜか女性にのみ現れる力だということ。そして、この力でできることとできないこと。
結論から言えば、たいしたことはできないそうだ。……ちょっと残念。まぁ私自身、消しゴムを浮かせるくらいしかできないのでちっとも意外じゃないけれど。
でも、どこかに力の強い魔女がいて、それこそお話の中みたいに、空を飛んだり、動物と話をしたり、好きな場所に一瞬で移動したりできるんじゃないか、そう思っていた。
ところが、そんなのはなかなかできないそうだ。(あ、でも条件をそろえれば空は飛べるらしい)
魔女というのはその場で力をこめたり、呪文をとなえれば途端にすごい力が出せるようなものではなく、あらかじめ時間をかけて準備をしなければならないのだ。
例えば、必要な材料をそろえ、きまりごとにしたがって処理し、魔方陣を書いて、時間をかけて儀式をする。……そんな感じ。
そうやって初めて力を持った道具を生み出せるのだ。そしてそういう道具がないと魔女とは言ってもたいしたことはできない。例えば空を飛びたいのなら、そう、箒が必要になるのだ。
箒。誰もが知ってる魔女のだいめいし。これがなくては魔女とは言えない。それほどに重要な魔女のシンボル。あれも作れるそうですわよ、奥さん。
……コホン。と、思わず変なことを口走りそうになるくらい、それを聞いたときは興奮しました、ええ。でも仕方ないよね? なにせ憧れの箒なのだから。その時ばかりは私は必死になって箒の作り方を教えてくださいって先輩たちにお願いした。
『あ、やっぱりそこに食いつくんだ』って先輩たちからは笑われてしまったけど。
でもいいのだ。どうしても私は魔法の箒が欲しいんだから。箒で空を飛ぶ。それができたらきっと魔女でよかったって思えるだろう。できれば、後ろに知佳ちゃんを乗せて、夜の街をゆっくりと飛びたい。そうしたら知佳ちゃんも私のことを魔女だって信じてくれるだろうしね。
だけど魔女の箒を作るのはそう簡単なことじゃない。まず材料だけど、300年以上年をとった樫の大木の枝が必要なのだとか。しかもそれもなんでもいいわけじゃなくて色々な条件があるらしい。
さらにそれを切り取る手順や時間なんかにも細かいきまりごとがあって……。つまり、今すぐに作ることはできないのだ。
幸い、ウィッチネットの先輩の中には何人か実際に箒を手に入れた人もいて、私のために今、魔女同士のつてを使っておはなししてくれている。多分あと数か月もしたら材料はそろえられるんじゃないかって言ってくれた。
おそるおそる代金について聞いてみたけど、『魔女同士の取引ではお金は使わないよ』とのことだった。
では何を使うのかというと、基本的には物々交換なのだそう。だから、私は箒の代わりに、何か魔法の品を作り出して返さなければならない。本来ならば。
『でも今回は初めてだし、仲間が増えたお祝いってことでいいよ』
「えっとでも、それは……」
申し訳なくて遠慮しようと思ったけれど、『ホントにいいよ』って何度も言ってくれて。
最後には「ありがとうございます」とお礼を言った。いつか立派な魔女になれたら、必ず何か喜んでもらえるものを作ってお礼をしようと思う。