Quest8 戦闘
最初は別視点となります。
「お、オークジェネラル!!」
誰かが、叫んだ。
いや、この声はマーカスだろう。見た目に見合わず大酒飲みの気の良い奴だ。あれでも、貴族だというのだから驚きだ。
しかし、オークジェネラルとは……
俺は、目の前に群がるクソ豚共を睨みつける。
何体殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても湧いてきやがって……邪魔くさい。
殺し尽くす。
明確な殺意をクソ豚共にぶつける。
いくらか、下がったみたいだ。俺の剣気も捨てたものではないらしい。
だが、それでも……
こっちが不利なのに変わりはない。
しかし、それがなんだ。
それが諦める理由にはならないだろう。
俺は自らに言い聞かせる。
俺はなんの為に強くなろうとした。
なんの為に強くなった。
そう言い聞かせ、俺はクソ豚共に斬りかかる。
まずは一番近い豚に剣技【スラッシュ】を。仰け反ったところに体技【正拳】。近づいてきた別の豚は普通に斬り、振り下ろされた剣を避け、すれ違いざまに脇腹に一太刀。
相変わらず切れ味がいい剣だ。
そう思いながら、徐々にダメージを与え、豚共を、減らしていく。
爺さんとかなら、もっと早く終わらせられるんだろうな。などと考え、それを振り払うとまた斬りかかる。
「ハァハァ」
あれから何体斬っただろうか。
少なくとも15体は殺った。それなのに、まだ出て来やがる。
もう何度振ったかわからない剣を握り直し、正面を見据える。
その先にはオークジェネラルが二体。オークナイトは散らばっている。
「くっそが、やってやる」
オークジェネラルとの距離を一気に縮める。
オークジェネラルはオークソルジャーの上位種。それが二体。中途半端にやろうものなら先に潰される。
繰り出すのは剣技【クアッドスラッシュ】。
四連撃がオークジェネラルを襲う。
その瞬間に、目の前からオークジェネラルが消えた。
代わりに血飛沫と肉片が散り、俺も衝撃を受け吹き飛ばされる。
なにが起きたのかわからない。
だがそれでも自分が命の危機に曝されていることは本能で理解できた。
立ち上がりながら、オークジェネラルが居た場所を見る。
そして……動きを止めた。
膝が笑う。今すぐにでも足をつきたくなる威圧感。
忘れたくても忘れられるはずもない、記憶。それが蘇る。
まだガキだった頃。
冒険者だった親父に憧れた。鍛冶師にして剣士。ダブルクラスという才能に恵まれた親父の強さに憧れた。
親父の振る剣の無骨な輝きに魅せられた。
いつしか俺の夢は、親父と並んで戦うことになっていた。
だが……
俺が幼馴染を連れ出して森へ遊びに行ったせいで、それは叶わないこととなった。
なんで、あんな森にあんな化物が居たのかはわからない。
それでも、あの化物に出会わなければ夢は叶っていたのではないかと思う。
「強くなれ。そんでもって愛しいモノを優しく包んで守れるようになれ」
助けにきた親父の最後の言葉。
そして、親父は、俺達を逃げさせると化物──オークバーサーカーへと斬りかかった。
村に帰った俺達は、地獄を見た。
燃える村と死体の山、その死体を齧るオークに女を犯すオーク。
呆然とそれを見ていると、周りが暗くなった。
見上げれば、例の化物を超える巨体のオークが汚い笑みを浮かべていた。
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。
頭ではそう考えるものの足は全く動かなかった。
オークベルセルク。
そのオークが親父を殺したオークバーサーカーの親玉だと知ったのは後になってからだった。
そして、そのオークベルセルクが自分の目の前に居る。
無理だ、勝てるはずがない。
俺は自然と勝つことを諦めた。自分がいまここに居るのだって、あの時、爺さんにたすけて貰ったからだ。
その爺さんに一太刀どころか、動かすこともできない自分では無理だ。
剣を落として、膝をついた。
親父の作った剣……長い間世話になった相棒。
ドシンドシンと足音を響かせながら、オークベルセルクが近づいてくる。
周りでは戦闘が続いてるはずなのに、俺の耳には戦闘音が聞こえてこない。自分の心臓の音と、オークベルセルクの足音。その2つだけが聞こえてくる。
ここで終わりか。
俺は、オークベルセルクを見ながら静かに呟いた。
強くなったといっても結局は、コイツを見ただけで諦める。こんな状況でもそんな自分に嫌気がさす。
「シンくん!!」
不意に俺を呼ぶ声がした。
振り返ると、馬車から身を乗り出してこっちを見ている幼馴染のセレナの姿が見える。
馬鹿野郎。
そう叫ぶ。豚共が馬車を狙わなかったのは、中に女が居ると知らなかったからだ。だから先に俺達を攻撃していた。
だが、女が居るとしれたら奴らは女に群がる。その証拠に、豚共がそちらに向かい始めた。
同期の奴らが必死に止めようとするが、無駄だ。
一匹の豚が馬車の前に立つ。そして、その穢らしい手でセレナを掴んだ。
俺にはどうすることもできない。
諦めんのか?
自分の声がそんなことを言い始めた。
そうだよ。俺はアイツを見て諦めた。
なら、セレナは死んだな。それも、豚に凌辱され、豚の子を産まされ続けた末に。それでもいいんだな。
良いわけないだろ。
なら、戦えよ。
だから、無理なんだよ。
戦え。親父の言葉、忘れたのか?
忘れてねぇよ。
だったら、戦え。死ぬんなら、誰かを守って死ね!無理だ、なんて甘ったれんな。
うるせぇよ。けど……その通りかもな。
せめて、あの豚だけでも、殺す。
俺は、剣を取って、セレナのもとへ走る。
アイツじゃなければ、どうとでもなる。
「手を離せ、豚ァアアアアア!!!」
剣技もくそもない、突きを豚の頭に放つ。
少しの抵抗を捻じ伏せて、剣は骨を貫き脳を掻き乱す。
剣を抜くと、血の雨が降り注いだ。
「エレナ、今すぐ馬車に戻ってお嬢を連れて逃げろ!」
俺は、若干服が乱れたエレナに早口で伝える。
「わかったな!行け!」
少し強めにエレナの背中を押し、後ろを向くと同時に身体に衝撃がはしる。
わかったのは自分が吹き飛ばされたということと、やったのがアイツだということだけ。
身体が自由に動かず、地面に落下する。
そして、見たのはエレナに襲いかかるアイツの姿。
エレナのメイド服が破れる。
やめろ、やめろ。
「やめろ、くそ豚!!!!」
倒れたまま俺は叫んだ。
だからといってなにが変わるわけでもない。
だが、俺は……
つくづく妙な運が良いようだ。
「また、オーク。
いい加減に………………しろ!!!!」
そんな声とともに、黒髪の青年が豚共の頭を斬り飛ばした。
◇◇◇◇◇
澪夜は剣戟の音を聞いて、そちらの方向に向かっていた。
もしや、第一村人か!?
そんな期待を胸に、澪夜は道を急いだ。
そして、見えたのは数十のオークとそれと戦う騎士。
今にも凌辱されそうな女性。
それを見て、澪夜は完全にキレた。
【禍津姫】を抜き、地面を蹴る。
「また、オーク。
いい加減に……………しろ!!!!」
そう叫ぶと、澪夜は女を犯そうとしている身体に赤い線が入った黒いオークの頭を飛ばす。
黒き風と紅く禍々しいオーラを纏った剣閃が奔るたびに、オークが断末魔を上げる暇もなく血飛沫を上げ、醜い死体を地に伏せる。
騎士たちが戦い続けていたオーク達は、大した時間を掛けられることもなく、全滅した。
澪夜が介入し、終わりを告げた戦場で騎士たちは呆然と立ち尽くす。
そんな中、澪夜はインベントリから低級のローブを取り出すと、破れたメイド服を着た女に被せる。
そして…
自分のステータスを確認して顔を顰めた。
なぜなら……ステータス表記がバグっていたからだ。
もちろん、澪夜はこれがなぜなのかは知らない。
だが、答えを言うとすれば……始原の神が言うところの肉体の変質の予兆である。