Quest4 転移
土と草の匂いが風に乗って、澪夜の鼻腔をくすぐった。
少しして澪夜はふと目を覚ました。
周りを見渡して……再び寝ようとして動きを止める。
「なんで、外…」
澪夜は呟く。自分は外に出た覚えはないぞ…と。
澪夜の最後の記憶は、エリュシオン・オンラインのアテナスレイクのレイク神殿で100回目の転生を行い、ログアウトしてそのまま眠りにつくところだ。
コンビニ……どころか、自宅のルーフバルコニーにすら出ていない。
それに、この場所はなんだと少し遅れて考える。
周りには鬱蒼と茂る木々と熱帯のジャングルにでも居そうな色鮮やかな鳥。
どう考えても日本の景色ではなさそうだ。
それどころか、地球ですらないかもしれない。
澪夜は数十m先からこちらを伺っている生物を見て考えた。
その生物は体長100cmほどで小さな角が1つ額に生えており、汚い腰布を着けた緑色の人間のようなものだった。
手に棍棒を持ち、こちらを見ている。
そんな得体の知れない生物に見られ、周りはよくわからない土地でありながらも、澪夜は何故か落ち着いていた。
夢……と考える。
だが、なぜあんな生物がいるのかという謎が生まれる。
あの生物がなんなのかはわからないが、よく似た生物なら知っている。勿論、リアルではなくエリュシオン・オンラインでの話ではあるが。
ゴブリン……もし、エリュシオン・オンラインの知識が通用するのなら、きっとその生物だろう。エリュシオン・オンラインでは初心者に狩り尽くされたその生物にそっくりであった。
しかし、なぜゴブリンなのか。
夢なら、最後に戦った黒き百腕の巨神でも出てくるのではないか。
とりあえず現状の把握…(夢で現状把握というのもおかしな話ではあるが)。澪夜がそれをしようとした時、ゴブリン(仮称)が澪夜に向かって棍棒を振り回しながら走ってきた。
澪夜はそれを見て、すぐに立ち上がる。
幸い、ゴブリン(仮称)は小さいため、すぐに近づいてくるということはなかった。ゴブリン(仮称)と接触するまでには10秒ほどの猶予がある。
逃げるか、戦うか。
よくわからないから戦いたくはないが、所詮は夢。それに相手がエリュシオン・オンラインと同じような動きをするのであればどうにかなるだろう。
澪夜はそう考えると、身体の力を抜き、構える。
隙だらけのようであって、まったく隙のない構え。
澪夜はゴブリン(仮称)と接触する。
ゴブリン(仮称)は乱暴に棍棒を振り回し、澪夜を攻撃する。だが、それは速いということもなく、余裕を持って避けられるほどの速度だった。
事実、澪夜も簡単に避ける。
伊達に、インフレイドボスをソロ攻略していない。
そんな中、澪夜は軽い驚きに見舞われていた。それは、自分の身体がいつも以上に軽いということ。それこそ、エリュシオン・オンラインでのキャラの様に。
でも、まあ夢だからだろう。と、澪夜はすぐに結論を出すと、意識を切り替え、攻撃に転じる。
「殺すのに必要なのは……的確な攻撃と正確さ」
ゴブリン(仮称)が棍棒を振り上げたタイミングで棍棒の反対側、つまりゴブリン(仮称)の左側に右足を踏み出し、移動する。その瞬間に、左膝をゴブリン(仮称)の顔面に叩き込む。
ゴキッという、骨が折れるような音と共に、鮮血を撒き散らしながら、ゴブリン(仮称)が吹き飛び、木に激突する。
数十秒しても……動かない。
どうやら、死んだようだ。だが、澪夜は殺したことに何かしらの感情を持つことはない。夢であるし、殺すというのはエリュシオン・オンラインで慣れてしまっている。
しかし……澪夜は疑問を持った。いや、持ってしまった。
なぜ、このゴブリン(仮称)はなにもドロップしないのか、と。エリュシオン・オンラインであれば、斃されたモンスターは確定で最低1つのアイテムをドロップする。そして、後は解体スキルLvやLUK値によってドロップする。その後はすぐに消滅するのだが……このゴブリン(仮称)はアイテムドロップすることも消えることもない。
夢ならばエリュシオン・オンラインに準拠した夢のはず……そうでないのならゴブリンのようなものが出てくるのはおかしい。
澪夜はそう考えていた。
ふと、澪夜は思い出す。
エリュシオン・オンラインにはステータスがある。この夢でもあるのではないかと。
澪夜は中空で指を上から下にスワイプするように振る。
すると、目の前にメニューが開かれる。やはり、エリュシオン・オンラインと、同じだ。
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♦Main Menu♦
◇1029-3_5/13_10:42
■Status
■Equipment
■Item
■Map
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しかし、色々と無い項目もある。フレンド欄が無くなっている。
それに、日付もおかしい。
だが、それを置いておき、澪夜はStatusの項目をタップする。
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姫神澪夜 18歳 種族:神人(半神)
Class:ꙩ【剣帝神Lv456】
【刀帝神Lv823】
【武帝神Lv399】
【猟帝神Lv399】
【賢帝神Lv792】
【鍛冶帝神Lv777】
【薬帝神Lv325】
【食帝神Lv122】
・
・
・
PlayerLv1(転生:100)
MP:21694874000(^5)
STR:1129689(^5)
AGI:1129689(^5)
VIT:1472918(^5)
INT:1472918(^5)
MND:1472918(^5)
DEX:1816149(^5)
DEF:1129689(^5)
LUK:786459(^5)
《ノーマルスキル》
【剣術Lv653】【刀術Lv899】・・・
《レアスキル》
【剣聖術Lv322】【聖剣術Lv122】・・・
《レジェンドスキル》
【神剣術Lv153】【神刀術Lv699】・・・
《オリジンスキル》
【獲得経験値5乗】【全能力値5乗】・・・
《ジョブスキル》
【剣帝神Lv423】【刀帝神Lv813】・・・
《アビリティ》
非表示
《レアアビリティ》
非表示
《ユニークアビリティ》
非表示
《固有秘奥》
非表示
《称号》
【異世界人】【極夜の帝】【インフレイヤー】
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映しだされるインフレステータス。
だが、澪夜の目を引いたのは種族と、称号。
種族、神人(半神)。そんな種族はエリュシオン・オンラインの公式攻略には記載されておらず、攻略サイトの種族チャートにも載っていなかった。
つまり……
「これが……隠し種族……最強の種族」
澪夜の叔父が言っていた種族こそ、神人であった。
そして、称号なんてものはエリュシオン・オンラインには存在しなかった。
だが、その称号にこそ、重要なことが書いてあった。
「【異世界人】…」
澪夜は恐る恐るその称号をタップする。
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《称号》【異世界人】
異世界からの来訪者を表す称号。
言語理解を取得
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その説明だけで、澪夜は理解した。
ここは夢のなかでも、まして地球でもない。
「異世界…」
なのだと。