Quest18 妖刀使いと妖刀に魅入られた一族
突然だが、エリュシオン・オンラインの中で妖刀とは2つの分類……というより種類に分けられる。
まず、一番オーソドックスな妖刀……それは刀系統武器に何らかのスキルや属性が付与された物のことを指す。つまりは、魔剣を指している。
そして、もう一つはその名の通りの妖刀……つまり、何らかの呪いなどが付与される強力な刀系統武器を指す。
澪夜が装備している妖刀【禍津姫】は後者。
つまりは呪いと引き換えに強力な能力を持つ刀ということだ。
後者の──禁忌型妖刀と呼ばれる──妖刀は先述のものの他にいくつもの特徴がある。
その一つが【一部NPCからの敵対行動】である。
なぜそんなシステムが作られたのかは分からないが、禁忌型妖刀は装備していると一部NPCから無条件で攻撃を受けたりすることがあった。
だが、そんなことがあっても澪夜がその妖刀を使っているのは、呪いを解けば、能力をそのままに使えるからだった。
◇◆◇◆◇
「……」
「そう、警戒せんでもいい。若人よ。
それを見て、妖刀などと言うのは儂とあと数人くらいじゃ。おおよそ、なにかの効果の付いた魔剣とでも思うのが普通じゃろうて。なにより……」
ムラマサはそう言いながら、腰に差していた剣……いや、刀の鯉口を切り、少しだけその刀身を顕にした。
「これも妖刀故。儂も同類じゃ。
改めて、挨拶をしよう。儂は【妖刀の一族】カガ・ムラマサ。妖刀に魅入られた一族の1人じゃ」
ムラマサは右手を澪夜に差し出した。
それの意味するところは握手だろう。澪夜も若干躊躇いつつもその手を握り返した。
「さて、若人よ。助けられたからには礼をせんとイカンな。
ふむ……今日の宿は決まっておるのかの?」
「いえ。恥ずかしながら、金を持っていないもので」
「そんな口調を使わんでいい。
そうか、金が無いか。それなら、そうじゃのう……助けられた礼として多少の金を渡すとしよう」
「ちょっと待ってくれ」
そう言いながらムラマサは懐に手を入れた。
だが、澪夜はそれを思わずといった感じで止めた。
「こっちが勝手に介入しておいてそこまでしてもらうのは悪い。爺さんならあの程度簡単にあしらえただろうし」
「気にせんでいい。助けられたのは事実じゃ。それがたとえ、自分で解決できたものだとしても」
「でもな」
「ふむ……それなら、若人よ。なにかアイテムを持っておらんか?儂がそれを買わせてもらおう。大方、金が無いと言うからにはこの村になにか売りに来たのじゃろう?」
ムラマサの言葉に澪夜は無言で腰のポーションホルダーからポーションを取り出した。
「これでどうだ?」
「!?……主、これをどこで手に入れた!?」
「うぉっ、爺さん落ち着け!」
「す、すまん。もう一度聞くぞ、この【聖薬】をどこで手に入れたのじゃ。これは、古代文明の遺物……エリクサーと対を成す秘薬のはず」
ムラマサの言葉に澪夜は内心、穏やかでは居られなかった。
ムラマサ曰くこれは相当に希少なものらしい。澪夜からすれば、インベントリ内に腐るほど入っているどころか、いくらでも作成可能なこのポーションがだ。
もし、仮にあのまま王都で売り払っていればどうなっていたのか、想像に難くなかった。
「家から持ち出してきた一つだ。兄が薬師だった」
「なんと……主の兄が作ったのか!?その兄はどこに!?」
「あの世だ。薬師だが戦闘力は皆無でな……」
澪夜はムラマサの言葉に嘘の答えを返した。
さすがに、死んでいるのでは誰も手を出せないだろう。そう考えて。それに、なにかするにしても地盤を固めたい。そう思うのは普通だった。
因みに、薬師の兄というのは強ち間違いでもなく、兄ではないが地球で従兄が薬剤師をやっていた。
「それで……それは買ってくれるか?」
「いや、流石にこれは儂では買えん。国レベルでないと手も出せんじゃろう。主もこれを持っているのは秘密にしておいたほうがいい。他に、なにか無いかの?」
「わかった。他となると……これなんかどうだ?」
そう言って澪夜が取り出したのは、エリュシオン・オンライン内で【中位体力回復薬】として出回っているもの。澪夜も初期にお世話になったNPCの店売り品だ。
「これは……【上位回復薬】!よし、買わせてもらおう。相場は小金貨6枚……60000シルだったかのう。10000シル分は大銀貨で支払おう」
「あ、ああ」
澪夜は戸惑いながらも、ムラマサの言った条件でポーションを渡した。だが、澪夜の渡したポーションは中位だったはず、決して上位では無いのだ。
だが、その疑問もすぐに解決することとなった。
魔眼【森羅万象の眼】。それを使用した澪夜の前には【中位体力回復薬】の情報が羅列されており、そこにはこう記されていた。
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■【中位体力回復薬】 ■
■体力と怪我を回復させる。 ■
■エリュシオン・オンラインに於いては中位だが■
■この世界では上位のポーションとなる。 ■
■価値…60000シル ■
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通貨の単位についても、魔眼で確認できた。
大まかに日本円に当てはめるとこんな感じだろう。
小銅貨=1シル=10円
大銅貨=10シル=100円
小銀貨=100シル=1000円
大銀貨=1000シル=10000円
小金貨=10000シル=100000円
大金貨=100000シル=1000000円
この硬貨はいずれも【商業ギルド】というものが発行しており、全世界共通として使われているようだ。
「助かる」
「なに。これほどのポーションじゃ。欲しがるものも多かろう」
それにしても……と、澪夜はムラマサを見る。
魔眼によって知ったが、60000シルというのは日本円にして60万円だ。そんな大金をポンと出せるこの老人はなにものなのか。
澪夜は、そう考えざるを得なかった。
「そうか。それじゃあ、俺は失礼するよ」
「ほう、宿には泊まらんのか?」
「混んでそうだしな。あ……それと、身分を証明する物はどうしたら手に入る?」
「ん?ステータスカードを持っとらんのか?どこかのギルドカードも?」
ムラマサの問いに澪夜は頷く。
「山奥育ちだからな」
「ふむ。なら、どこかの街へ行くといいじゃろ。門で仮身分証を発行してくれる。その後はどこかのギルドに登録するといい。オススメは冒険者ギルドか、商業ギルドかのう」
「そうか。ありがとう、助かった」
「よい、よい」
そんなことを聞き終えると、澪夜はムラマサに礼をして、その場を去った。
向かう先は村から少し離れた場所にある空き地。
そこで澪夜は一夜を明かすことにした。