Quest17 老人
カール村。
畜産とトウモロコシ栽培を主な産業とする人口350人程度の小さな村だ。
午後5時。
そんな村に、一人の男が現れた。
長い黒髪に金に近い琥珀色の眼、所々に緋が入った黒衣の剣士──澪夜だ。
丁度夕飯時の村に、澪夜は入っていく。
向かう先には、笑い声のこだまする一際大きな建物。見たところ、食堂を併設した宿のようだ。
情報収集を兼ねて、澪夜はそこに宿泊しようと考えるが、金が無い。
澪夜は、周囲を見渡してまだ開いている店を探す。
なにか物を売って金を得るためだ。
そのために、売れるだろう物を考えながら辺りを散策する。
丁度、明かりがついている店を見つけ、澪夜が歩みを進めると、小さいながらも怒鳴り声が聞こえてきた。
聞こえた言葉によるとどうやら三人の男が老人を恫喝しているようだ。
澪夜は馬鹿のやる事はどの世界も同じかと思いながら声のする方へ向かう。前にも似たようなことに首を突っ込んで停学処分を受けたことを思い出して苦笑いしながら走り、着いたのは村の中心から少し離れた暗がり。見たところ周りにある家に住んでいる者は居ないようだ。
澪夜は自然体のまま声のする方へ行く。
「おい、ジジイ!聞いてんのか!!?あぁん!?」
「テメェ、カスノコさんが話してんだこっち向けコラァ!」
「さっさとその腰の剣寄越せってんだ、ボケェ!」
実に小物臭のする台詞に澪夜は思わず笑ってしまう。
さらに、その恫喝されている老人を一瞥し、怒鳴り散らしている男達を見て、更に笑う。
「なんだテメェ!?いつから居やがった!」
その澪夜の存在に、レザーアーマーを着けたハゲ頭の男が気付く。それに釣られるようにして、残りの二人も澪夜を見る。
「いつからって……ついさっきだが?」
澪夜はつい先程までの笑いはどこへいったのか、冷めきった声音で男に返答する。
「それよりも、お前らなにをしてたんだ?強盗か?」
澪夜は男達を見て、問いかける。
一応問い掛けてはいるがこの場面を見れば想像に難くない。剣を抜いて老人に突きつけている。どう見ても強盗だろう。しかし、それでも澪夜が問いかけるのは、両者間になにかしらのトラブル──例えば賭けに負けた老人が賭けた剣を渡さないなど──があるかもしれないからだ。考えすぎ、と言われるかもしれないが、老人という弱い立場を利用しての悪事など腐るほどにある。
「あぁ!?テメェ誰に向かって口聞いてんだ!
しかも、強盗だぁ!俺達は前途有望な若者に投資してくれとこの爺さんを説得してるだけだ」
「前途有望?説得?
その前途有望な若者ってお前らのことか?それと説得ってのは剣を突き付けることを言うのか?」
「なんか文句あんのか、コラァ!?
さっさと消えろ、ヘナチョコが!」
カスノコ、と呼ばれた男が凄む。
だが、澪夜はそれに動じる様子もない。
「カスノコさん、カスノコさん。
アイツの持ってる剣見てください。あれも中々のもんですよ!」
「ん?ああ、そうだな。
おい!それを渡せば痛い目見ずに済むぞ!それ置いてさっさと消えろ!」
「今度は俺が標的か……強盗だろ、これ」
澪夜は小さく呟く。
もう対応は固まった。多少は痛い目を見てもらうかもしれないが、致し方ない。
「なんだ、コイツが欲しいのか?」
澪夜は腰の禍津姫の柄を軽く叩く。
「やるわけないだろ、アホが。
舐めたこと抜かしてねぇで、消えろ筋肉達磨」
「じゃねぇと……斬る」
澪夜は少しではあるが禍津姫の刀身を顕わにする。
瞬間、その刀身と鞘から普通なら少し触れただけでも気がおかしくなりそうな程の禍々しいオーラが溢れる。
それは一気に冷たくなった澪夜の表情と鋭い殺気をさらに強調する。
「ひぃっ!?」
威勢のいいことを言っていたカスノコ達はその様子を見ると青ざめ、情けない声を上げて、後退る。
「もう一度言おうか?消えろ」
澪夜は再び冷たく言い放つ。
「い、行くぞ!」
それを聞き、カスノコは取り巻きにそう告げると若干足を縺れさせながらも、走り去っていった。
その様子を見て、澪夜は深い溜息を吐くと老人に向き直る。
「お爺さん、大丈夫だった……って、別に間に入る必要は無かったみたいだな」
老人に優しい言葉を掛けようとした澪夜だったが、老人をよく見て自分のしたことが大して必要では無かったことを悟る。
確かに見た目は白髪の老人だが、醸し出す雰囲気は強者のそれだ。
「そんなことは無いぞ、若人よ……名を教えてくれるかの?」
「姫神澪夜」
「なるほど……ヒメガミ・レイヤ。
おお、忘れておった。儂はカガ・ムラマサじゃ。よろしくの」
そう言って老人の差し出した手を澪夜は握る。
「ところで訊きたいのじゃが……その刀は妖刀で間違いは無いな?」
そう言った老人の目は好奇心に満ちていた。
今更気付いたけど……タイトルがネット小説大賞の旧名と被ってる……
それと、これを書いてるとこれまた今更ダクソ3を買おうか迷う。